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過去の展示

自然がささえる草原の食卓


赤い食べもの 冬は肉が食の中心
モンゴルの人々が「赤い食べもの」という肉類には、家畜として飼っているヒツジ、ウシ、ヤギ、ウマ、ラクダの五畜が全て含まれます。そのほか夏には“草原のリス”と呼ばれる野生動物タルバガンも食べます。なかでも肉といえばヒツジで、最もおいしく、多量に食べられています。夏季は紐状に切って屋内で干し肉にしたり、料理のダシとして使う程度ですが、冬は食の中心食材として多量に消費されます。
ヒツジの解体は「オルルフ」と呼ばれる伝統的な方法で、心臓の血管を指でひきちぎります。そして一滴の血も外へこぼさずに、胸腔に溜めます。解体した肉、内臓のほか、骨の髄、筋、膜のすべてを食糧として消費します。内臓は保存がきかないため、少量の塩で味付けをして茹で、その日のうちに食べます。血液は胸腔から汲み出して腸に詰め、茹でてブラッドソーセージとして食べます。このように血液、内臓を丸ごと食べることで、各種ビタミンや、ミネラルを摂っています。家畜の恵みを完全利用しているのです。
冬用の肉を得るため、秋の終りに家畜を屠殺します。4人家族で、ヒツジ2頭、ヤギ1頭、ウシ、ウマ各1頭前後です。それらの肉はブロック状に切り分け、戸外で保存します。茹でて食べるのが一般的な食べ方で、茹で汁もスープとして飲みます。そのほか、アルミ缶に少量の水を入れてから肉と焼いた石を加え、パッキンをして蓋をし、簡易圧力鍋スタイルで、直火にかけてつくる「ホルホック」があります。爆発させない程度に蒸気を抜くタイミングが重要で、男性が戸外でつくります。
ヒツジの内臓を茹でる
ヒツジの内臓を茹でる
内蔵は茹でられた後、近所にお裾分けされる。これによってビタミン、ミネラルなどの微量栄養素を摂る機会が互いに多くなる
内臓の膜
内臓の膜
レース模様に見えるのはヒツジの内臓の膜。乾燥させて、肉を包んで食べる

ホルホック
ホルホック
ヒツジの肉をアルミ缶の中で蒸し焼きの状態にしてつくられる料理。モンゴルではごちそうのひとつ

タルバガンは首から内臓を引き抜き袋状にし、その中に野生のネギ、焼いた石、内臓、肉を詰め、首と尻を塞いで焼きます。この料理を「ボードク」といいます。このように動物の身体を調理器具にするのは、鍋の無かった時代の古い料理方法を伝えているといわれています。正式にはヤギを使うもので、最もモンゴルで野趣に富んだ豪華な料理といわれています。ヤギを料理するには皮を破らないで内臓や骨を抜き出す技術が必要で、名人がいます。
このようにモンゴルでは冬季の肉、夏季の乳製品と、その食には明確な季節性があるといえます。
タルバガン タルバガン
体長60cmほどのリス科の野生動物。警戒心と好奇心が強く、危険が迫るとイラストのように立ち上がる
ブラッドソーセージ
ブラッドソーセージ
血液を腸に詰め、煮込んで出来上がる。ヒツジ1頭からつくられるブラッドソーセージだけで、6~7人家族の2日分の食料になる
  ヒツジの発酵干し肉
ヒツジの発酵干し肉
生肉は屋内に吊るすことで、空気中にある乳酸菌によって自然に発酵し、発酵肉となる。肉の中は鮮紅色で風味もよく、常温でも腐敗しない
  ボードクをつくったときにできた汁を注ぐ
        ボードクをつくったときにできた汁を注ぐ
夏には野生のタルバガン猟も解禁となる。タルバガンのボードクをつくると中に黒い汁がでてくる。旨みのつまったこの汁は大変おいしく、すべて残さずに飲む
赤い食べもの