2012年8月24日

News Release No.12049

生しょうゆの香気成分の特徴と
加熱による変化を解明
~2012年8月24日の日本調理科学会大会で発表~

キッコーマン株式会社は、2010年9月に発売した「生(なま)しょうゆ(*1)」について、岩手大学と共同でその香気成分の特徴と加熱による変化について研究し、その成果を8月24~25日に秋田市で開催される日本調理科学会平成24年度大会で発表します。

しょうゆの香りはしょうゆの品質を左右する重要な要因の一つです。今回の研究では、火入れ(*2)をしていない生しょうゆの香りの特徴を明らかにするとともに、調理時の加熱を想定して、その香りの変化を調べました。

その結果、生しょうゆと、生しょうゆを火入れしたしょうゆ(以下、火入れしょうゆ)を加熱した時の香りを比較したところ、生しょうゆは甘く香ばしく、またその香りが保持されており、加熱調理したときに火入れしょうゆと異なる特徴があることが示されました。

生しょうゆと火入れしょうゆからカラム濃縮法(*3)により香気濃縮物を調製し、香りの特徴と強度を評価しました(*4)。さらに、加熱した生しょうゆと加熱した火入れしょうゆの香気濃縮物も同様に分析しました。

その結果、生しょうゆには火入れしょうゆよりも甘く香ばしい香気成分が多いことが分かりました。また、加熱により、生しょうゆの香気成分の数は増加しましたが、火入れしょうゆではその数が減少しました。

さらに、生しょうゆにおいても火入れしょうゆにおいても最も強い香気成分はカラメル様の香りを呈するHEMF(*5)であることが明らかとなりました。また、加熱した場合、生しょうゆの最も強い香気成分はHEMFでしたが、火入れしょうゆでは煮たジャガイモ様の香りを呈するMethional(*6)が最も強い香気成分であることが分かりました。なお、加熱した場合も、生しょうゆでは強い香気成分が残りましたが、火入れしょうゆではその成分が減少しました。

これらの結果は、「生しょうゆは甘く香ばしい香りを持ち、加熱してもこの特徴が保持される」ことを示しています。

このような生しょうゆの特性は、加熱調理に適していると考え、“豚肉のしょうが焼き”のメニューで官能評価試験を実施したところ、生しょうゆで調理した方が“おいしい”と回答した人が多かったという結果が得られました。

キッコーマングループは、今後ともしょうゆの基礎的な研究を進め、「お客様の生活を豊かにする」独創的な新製品開発と新技術開発を進めてまいります。

  • (*1)生しょうゆ
  • 大豆と小麦に麹菌を混ぜ合わせてつくったしょうゆ麹に、食塩水を混ぜて発酵・熟成させたものをもろみといいます。このもろみを布に包んでしぼったものが生(なま)しょうゆです。通常のしょうゆは、この生しょうゆを火入れし、色・味・香りを整えて出来上がります。
  • (*2)火入れ
  • 生しょうゆを加熱し、殺菌するともに、色・味・香りを整え、品質を安定させる工程です。
  • (*3)カラム濃縮法
  • 吸着樹脂を充填したカラムに液体試料を通し、カラム内に濃縮された香気成分を溶媒で回収する方法です。熱をかけずに室温で分析試料を濃縮することができます。
  • (*4)香りの評価
  • GC-OとGC-MSで分析し、AEDA法によって評価しました。
    • GC-O<Gas Chromatography-Olfactometer(ガス クロマトグラフィー オルファクトメーター)
      気化しやすい化合物を分析する装置のガスクロマトグラフィー(GC)の一種で、化合物を沸点や極性など化学的な性質の違いにより分離した後、ヒトが鼻でにおいを嗅ぎ、におい(香気成分)を検出する装置です。
    • GC-MS<Gas Chromatography-Mass Spectrometry(ガス クロマトグラフィー マス スペクトロメトリー)
      GCで分離した後、化合物をイオン化して質量(MS)の違いで検出する装置です。
    • AEDA法<Aroma Extract Dilution Analysis(アロマ エクストラクト ダイリューション アナリシス)法>
      分析サンプルを順次希釈してGC-Oに供し、ヒトが鼻で感じられる最大の希釈率を基に該当する香気成分のサンプルのにおいの強度を数値化する方法です。
  • (*5)HEMF<4-Hydroxy(ハイドロキシ)-2(or 5)-Ethyl(エチル)-5(or 2)-Methyl(メチル)-3(2H)-Furanone(フラノン)
  • 甘いカラメル様の香りを呈する、醸造しょうゆに特徴的な香気成分です。しょうゆの香気形成において、中心的な役割を果たしているといわれています。動物実験で、胃がんに対する抑制効果があることが分かっています。
  • (*6)Methional(メチオナール)
  • しょうゆや熟成した日本酒に含まれる香気成分で、その濃度により様々なにおいを呈します。しょうゆの重要な香気成分の1つと考えられています。

以上