醤油百珍 / 第二話

コラム

シンプルという究極

西川千雅

「あなたにとっての究極の料理は?」と訊かれたら。
僕は「目玉焼き丼」と答えます。
ごま油をひいて焼いた目玉焼きをごはんにのせ、
ポタポタとしょうゆをたらして、というシンプルな一品。
目玉焼きにはソース派やケチャップ派もいらっしゃると思いますが、
それらと比べて、しょうゆはすこし奥ゆかしいですよね。
華々しさよりも奥深さ。
主役を支えながらも、決して前には出すぎず、すっと馴染んでしまう。
まるで演技派俳優のようです。

小さい頃、アメリカに行くことが多かったのですが、
数日の滞在であってもいつもの味が恋しくなって、
当時、現地のレストランで「ソイソースをもらえますか?」と聞いたりして。
そうすると、店員さんが「OK、キッコーマン!」と答えてくれて驚きました。
いつもの食卓にあるものがここまで届いているのかと感激しながら、
お肉にしょうゆをこっそりかけた想い出があります。
大学時代はニューヨークで過ごしました。
そのつながりで、大人になって、現地で食関連の仕事をする友人から、
一流の料理人たちがメニューによってどのしょうゆを使うべきかを考えていること、
「うまみ」や「だし」などの日本の食文化が土地に浸透していることを見聞きし、
いいものはちゃんと世界に届くのかとまたしても感激。
「外」から見るからこそ、価値が見えてくる。
この視点はしょうゆや食文化に限らずだと思います。
170年前から続く日本舞踊・名古屋西川流の家元としても、
その気づきが今に繋がっていると思います。

僕らの流派では、「創造なくして継承なし。継承なくして創造なし」
という言葉が大事にされてきました。
自分たちの想像以上に、もっと広い世界が外にある。
伝統にあぐらをかかず、イノベーションを起こそうと、
日本舞踊をつかった健康体操NOSSの普及や、
現代美術とのコラボレーションも行っています。
以前、テレビ番組で伊勢神宮のお伊勢参りのナビゲーターをした際、
昔から神様に捧げるものは、原理に近く、
それでいて時代を越えたものなのだと感じました。
米、酒、塩、味噌、しょうゆも、流れる時代と共に在り、
その時代を生きる人に「良い」とされたから恒久的に愛されてきたはず。
「シンプルという究極」は、その時代に呼応したからこその姿だと思うのです。

西川 千雅(にしかわ かずまさ)

日本舞踊家。1969年三世家元・西川右近の長男として名古屋に生まれ、6歳で初舞台、15歳で名取に。2014年に西川流四世家元を継承。 70年以上続く公演「名古屋をどり」を主宰。健康体操NOSSの普及を行い、2019年藤田医科大学・医療科学科修士取得。

今月の百珍

秋の夜長に味わいたい ほろ酔い鍋

常夜鍋

酒と昆布を沸かし、具材をさっと煮込む常夜鍋。
酒の華やかな香りが、鍋からふわり。
つけだれのぽんずとにんにくしょうゆも、お手製ならば格別。
生真面目におしょうゆでいただくのも通ですね。

【材料】

2人分

  • 昆布 10g
  • 日本酒 500ml
  • 豚バラスライス 300g
  • ほうれん草 2束
  • 絹ごし豆腐 1丁
  • こいくちしょうゆ 適量

◎ぽんず

  • 柚子 2個(約50ml)
  • 米酢 少々
  • みりん 20ml
  • こいくちしょうゆ 50ml
  • 昆布 2g
  • 鰹節 2g

◎にんにくしょうゆ

  • にんにく 1片
  • こいくちしょうゆ 80ml
  • 25ml
  • みりん 30ml

※つけしょうゆには「火入醤油 亀甲萬」、ぽんずには「生醤油 一番しぼり」、にんにくしょうゆには「生醤油 二段熟成」がおすすめです。

【作り方】

常夜鍋

  1. 濡れたキッチンペーパーで軽く拭いた昆布と日本酒を鍋に入れる。
    ※お酒の弱い方やお子様がいる家庭は日本酒1/3~1/2を水に置き換える
  2. 沸騰させ、豆腐、ほうれん草、豚バラスライスを入れる。
  3. しょうゆ、ぽんず、にんにく醤油から好みのタレをつけてお召しあがりください。

ぽんず

  1. 柚子の皮はおろし金でおろす。
  2. 柚子を絞り米酢を合わせ、茶こしで漉す。
  3. みりんを煮切り、冷めたら漉した柚子と皮を入れる。
  4. 保存瓶に入れ、しょうゆ、米酢、昆布、鰹節を入れ常温で3時間寝かせ、漉して使う。

にんにくしょうゆ

  1. にんにくをみじん切りにする。
  2. しょうゆ、酒、みりん、にんにくを入れ沸騰させ冷やす。

イラスト / マメイケダ