コラム
本質を求め、語り継ぐこと
僕は、母方の東儀家が1300年続く雅楽の家、父は商社勤めの家庭に生まれましたが、
幼い頃、「雅楽師」になろうと思っていませんでした。
1歳から7歳まで、父の赴任先のタイで育ち、幼稚園の頃にビートルズにハマりました。
小学校後半からはギターを始め、中学校はイギリスやアメリカのハードロックにのめり込み、
高校時代はバンド三昧。ギタリストを夢見た高校2年の頃、親に「そんなに音楽が好きなら、
一つの選択肢として雅楽もやってみたら?」と提示されました。
海外生活が長く、行く先々で自分が日本の表札であるような感覚があったので、
自国の文化を背負うことへの醍醐味や誇りを感じるだろうからとやってみることにしました。
雅楽を選んでも好きなロックを止める必要もないというスタンスで皇居での稽古に通い始めました。
僕の場合、雅楽以外の音楽を親しんできたので、
比べることで雅楽の魅力や疑問点をいち早く感じることができました。
宮内庁で7年間の修行を経て、その後、正式に宮内庁の雅楽師に。
誰よりもいい古典の演奏を追求し、
同時に古典以外の遊び心を持った演奏や創作を続けました。
宮内庁を辞める直前にデビューアルバムを出し、現在の活動に至ります。
食の話に触れますと、僕は家族が大大大大好きなので、皆で必ず食卓を囲んでいます。
特にタイ料理が好きで、ナンプラーやしょうゆで自分流に味を調えて、
セッション感覚で料理を楽しんでいます。
ちょっとしょうゆを足す。
そうやって「試す」と変化を楽しめて豊かになる。
それって料理だけでなく、音楽にも言えることですね。
僕は今、63歳。「息子さんは雅楽を継いでくれますか?」とよく聞かれます。
実際、16歳の彼がメディアに出る時はギターを演奏することが多いのですが、
雅楽などの文化を継ぐ、というのは形だけ伝えるのでは意味がないと思っています。
一番伝えたいことは本質であって、精神性です。
息子はエレキギターを弾きながらも、雅楽が好きで、
東儀家を誇りに思ってくれているようです。
そこに本質があるから、とても頼もしく先を楽しみにしています。