醤油仲間 / エッセイ

文化は日々に息づく

竹本 織太夫

文楽の世界では三業(さんぎょう)といって、
物語を語る「太夫(たゆう)」と三味線を弾く「三味線弾き」、
そして人形を動かす「人形遣い」の3つの仕事で成り立っています。
竹本織太夫として、異分野と交流したり、書籍を出版したり、発信を続けているのは、
「知られていないということは存在していないことと同じことだ」と思っているからです。
「週末、どこへいこうか?」と週末の行き先メニューがあったとしたら、
そこに「文楽」を加えてほしいんです。
日常の中にあるからこそ、文化になっていくと思うのです。
江戸時代中期に生まれた伝統芸能は今日も進化しています。
2000年からは大阪市立高津小学校で「高津子ども文楽」という取り組みをしています。
5年生から6年生までの1年間40時間以上の稽古をして、
浄瑠璃が語れて、三味線が弾けて、三人遣いの人形が遣える、
そんな子供が20年間で約600人以上輩出されている。
耕作放棄地のようになってしまった地元を耕して、種を植えていく取り組みです。
こうして地域の文化になっていく。

日本語は面白くて、
三大名作や三大祭とか"三拍子揃っている"なんて「三」を使った表現をよくしますが、
私からすると、しょうゆって味つけ、色づけ、香りづけと三拍子揃っている存在。
料理の主役になれて、脇役にもなれて、黒衣にもなれる。
しょうゆを使った私の定番メニューは、「海苔トースト」。
まずは4枚切りの食パンを半分に切る。
その次に海苔の両面にしょうゆをしっかり塗ってパンにのせて。
そこにチーズを挟むかは、お好みで。
トーストの表面を7ミリ幅で5ミリくらいの深さで切れ込みを入れてから焼く、
焼けたら丁寧にバターを塗って、3等分に切っていただく。
行きつけの喫茶店のレシピで、コーヒーとあわせてかれこれ30年近く食べています。
公演や稽古で全国を飛び回る中、過密なスケジュールの間の癒しのひとときです。

竹本住太夫師匠が引退されるときに
「わしが引退したら文楽を率いていくのはお前やからな」と言われました。
「これからは自分のために行動するのではなく、文楽のために行動しなさい」と。
文楽という芸能を後世にどれだけ伝えられるか。
近年の私の活動の原動力はこの言葉にあるんです。

竹本 織太夫(たけもと おりたゆう)

1975年大阪生まれ。2018年1月に六代目竹本織太夫を襲名。2011年、第28回咲くやこの花賞、2013年、第34回松尾芸能賞新人賞、大阪文化祭賞グランプリ、2018年、関西元気文化圏賞ニューパワー賞、2019年、第38回国立劇場文楽賞文楽優秀賞など受賞歴多数。