醤油仲間 / エッセイ

しょうゆハンターじゃないけれど

竹内 海南江

昭和世代の田舎育ち、特に関東だと、肉じゃがに、きんぴらに、
とにかくしょうゆ味が家庭の味ですよね。
私は群馬県に生まれ、料理好きの母の味で育ちました。
台所には三種の神器のように、しょうゆの一升瓶がありましたね。
私の父も、しょうゆ好き。
私が幼い頃、夜遅くにね、父が一升瓶を傍らに置いて、何かを飲んでいたことがあったんです。
「父ちゃん何飲んでるの?」と尋ねると、父は「父ちゃんはお醤油を飲んでるんだよ。
かなちゃんにはしょっぱいから、やめておきなね」って笑われたことがありました。
今ならそれが日本酒って分かるんですけど、「しょうゆは一升瓶」っていう時代だったから納得しちゃって(笑)。

20代から世界を巡るリポーターをしてきて、訪れた国の数は105か国ほど。
行く先々で様々な食文化に触れてきましたが、植物性で、火を通さず生で食べられて、
卓上に置いておけて、なんにでもあう調味料って、しょうゆ以外に見当たりません。
取材当初は、海外にしょうゆが広まる前。
取材班の新人ADさんが気を利かせてスーツケースにしょうゆを持ってきてくれて、
道中にスーツケース内で爆発させてしまった…なんていうのも今では楽しい笑い話です。
10年ぐらい前から、お寿司などの日本食と共にしょうゆがグローバルに一気に広まって、
日本から持っていかなくても大丈夫になったんです。旅先で感慨深かったですね。
私、しょうゆハンターじゃないけれど(笑)。
インドで日本人を見ると厨房からシェフが嬉しそうに出てきて
「ソイソース♩」ってホスピタリティをアピールしてくれたりね。
それも一つのコミュニケーションですよね。

その土地の食に触れる時間は、その町の人と自然と深く触れ合える時間です。
食卓を囲んだり、食堂で皆でお皿に分けたり。
自分たちの普段食べているものを「食べている」「食べていない」が最初のステップ。
私は何でもおいしくいただけるタイプなので、本当に何でも食べてきました。
そうすると、自分たちの仲間のように思ってくれる。
言語を超えて人が繋がる瞬間に、「食」のあふれんばかりの可能性を感じます。

竹内 海南江(リポーター)(たけうち かなえ)

1964年生まれ。30年以上に渡りTBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして活躍中。訪れた国は105カ国、番組出演は290回超。旅の経験をもとにバッグ、靴などのプロデュース、TV・CM出演、エッセイ・小説執筆など活動は多岐に渡る。