醤油仲間 / エッセイ

いつもそばにいてほしい存在

高山 なおみ

おしょうゆと聞いて頭を遊ばせてみたら、
小さい頃おしょうゆのお煎餅がすごく好きだったことを思い出しました。
静岡県富士市が出身で三島市出身の「ちびまる子ちゃん」と
同世代ということもあるかもしれません。
「ちびまる子ちゃん」を見ていると、
こたつの上の菓子鉢には、いつも丸いおせんべいが並んでいるでしょう?
私も、どちらかというとケーキや和菓子よりお煎餅やお漬物とお茶。
焼き海苔におしょうゆをぺったりつけて二階だてにした海苔ごはんのお弁当、
焼いたお餅におしょうゆは2度づけ。しょっぱいものが好きだったのかな?
お煎餅に塗られたおしょうゆをぺろぺろとなめて楽しんでいるような、
そんな子どもでした。

今は、素材の味を生かしたいから実は調味料はお塩を使うことが多いんです。
おしょうゆは強いですよね。
かけると全部おしょうゆの味になっちゃうでしょう。
でも「これはおしょうゆじゃなきゃ」というものもあります。
お刺身は塩でも食べるけれど、最後は絶対に生しょうゆ。
それと、茄子を油で焼いて、おしょうゆと七味唐辛子をかけて食べるのが大好きです。

それから、私にとっておしょうゆは隠れた名脇役です。
トマトソースにちょっぴり入れれば酸味をやわらげて、
馴染みのあるほっとする味にしてくれる。
オイスターソースにおしょうゆとごま油でつくるタレもおいしいし、
バルサミコ酢とあわせるとハンバーグのソースになります。

冷蔵庫にいつもあるのは葱じょうゆ。
葱を新鮮なうちに刻んで瓶に入れて、おしょうゆを少なめに注いで振ると、
葱の水分がおしょうゆとあわさるの。
キビ砂糖ちょっとと、一味唐辛子、ときどきごま油を入れたりもします。
炊き立てのごはんにのせても、餃子につけてもおいしいので常備しています。

神戸に越して8年。
驚いたのは、暮らす場所が変われば作る料理もかわるということ。
洋風の街並みに刺激され、三宮の北野で新鮮なスパイスが手に入ることもあって、
家での料理にもスパイスを使うようになりました。
よく作るカレーにも、甘みがほしいときにははちみつ、
酸味はジャムで、そしておしょうゆをひとたらし。

エスニック料理もスパイシーなものも好きだけれど、
でも、ちょっと具合の悪くなったときや疲れたときに食べたいなって思うのは、
やっぱりおしょうゆの味かもしれません。
祖母が作ってくれた、あまじょっぱい溶き卵の入ったおうどんは、
今でもたまに食べたくなって、再現して作っています。
自分の中の基本というか、素に戻るような懐かしさや記憶がおしょうゆにはあって、
それは日本に育った誰しもが持っている気がします。

今までおしょうゆは名脇役だと思っていたけど、
いざというときに頼れる縁の下の力持ちなのかもしれないなって思いはじめました。
とにかく、私にとっていなかったら困っちゃう、いつもそばにいてほしい存在です。

※文章は亀甲萬本店スタッフの聞き書きで作成したものです。

photo by 枦木功

高山 なおみ(料理家・文筆家) (たかやま なおみ)

『自炊。何にしようか』(朝日新聞出版)、『気ぬけごはん』(暮しの手帖社)、『日めくりだより』(扶桑社)など著書多数。近刊は『暦レシピ』(アノニマ・スタジオ)。2016年より神戸市在住。