醤油仲間 / エッセイ

「醤油のおいしい記憶」

松岡 修造

醤油は僕にとって一つの血液みたいなものである。
小さい頃から注入され、僕の心と体を養ってくれた。
初めてテニスの海外遠征に挑んだのは12歳のとき。
スーツケースにはボトルの醤油がテニス道具とともに加わっていた。
そして、遠征先で僕は醤油をちびちび舐め、
ご飯には醤油をかけて食べるのが定番。
僕にとって醤油はその美味しさだけではなく、
どこか安堵感をもたらし、自分は日本人なんだと再認識させてくれるものだった。

プロフェッショナルテニスプレイヤーとして13年間世界で戦ってきたが、
現役を退いてからはプロフェッショナルイーターとして、すでに丸24年。
「くいしん坊!万才」の11代目として日本中を味わってきた。
その中で、自分は正しい食し方をしていたんだと
気づかせてもらった醤油との衝撃的な出会いがあった。
それは、川崎にある「寿司平」に伺った時のこと。
僕はいつも番組から用意された台本は読まず、
まさに初心のまま料理に挑んでいくが、
口にいれた瞬間、僕の“醤油愛”がより深くなった。
今から350年くらい前の江戸時代中期に海苔漁師が漁をする際に
船上で食べていたという「漁師の海苔巻き」。
醤油だけで味付けされたご飯を海苔で巻いただけのシンプルな一品。
海苔漁が盛んな時期、片方の手で海苔を獲りながら、
もう片方で海苔巻きを食べるという漁師さんならではの知恵でできあがった料理だ。
少しの醤油ではなく、たっぷりとご飯に混ぜた醤油ご飯を海苔で巻いていく。
一口入れた瞬間、思わず「これだ!」と絶叫。
小さい頃から親しんできた醤油ごはん、
一言で言うと旨味の塊が口のなかで踊っているような感覚だった。

踊ると言えば醤油の武器はどんな食とも仲良くなれる、ダンスできること。
「くいしん坊!万才」ではすでに47都道府県を二周り達成間近だが、
醤油と僕には大きな共通点があることに気づいた。
それは僕の生きがいである“応援“だ。
醤油は、人をそして食を応援している。
日本中の郷土料理と出会ってきたが、
醤油は様々な料理の味を引き立て、一所懸命料理を応援している。
旨味を引き出し人も料理も笑顔にさせる力、人間味を携えている。
これからも僕にとって「くいしん坊!万才」の中心にある醤油とともに、
いい味、いい旅、いい出会いを感じながら応援していきたい。

松岡 修造(スポーツキャスター) (まつおか しゅうぞう)

1967年、東京都生まれ。10歳から本格的にテニスをはじめ、慶應義塾高等学校2年生のときにテニスの名門校である福岡県の柳川高等学校に編入。同年高校総体単・複・団体で三冠を達成。その後、単身アメリカ・フロリダ州タンパへ渡り、1986年、プロに転向。1995年には、ウィンブルドンで日本人男子として62年ぶりとなるベスト8進出を果たすなど、日本を代表するトッププロテニスプレーヤーとして活躍。現在は、ジュニアの強化・育成とテニス界の発展のために力を尽くす一方、「報道ステーション」や「くいしん坊!万才」などメディアでも幅広く活躍中。