キッコーマン食文化講座

医食同源・健康思考の食文化

日程 2012年8月28日
場所 野田本社
講師 久保田芳郎先生
主催 キッコーマン国際食文化研究センター

1.高齢社会における生活習慣病予防の重要性

日本人の平均寿命は男性79.44歳、女性85.90歳ですが、健康寿命は男性70.42歳、女性73.62歳と約10歳の乖離があります。また日本人の死因は第1位がん、第2位心疾患ですが、第3位に肺炎、第4位脳血管疾患と高齢化に伴う肺炎による死亡率が増加しています。病気の原因(病因)には内因(遺伝などの病気に対するかかりやすさ:35%)と外因(環境、外部からの身体への作用:65%)があります。癌の外因としては食35%、喫煙30%、ウィルス10%といわれており、また動脈硬化の外因としては食事(動物性脂肪の摂りすぎ)、運動不足、喫煙があげられています。脳血管障害の予防には血圧降下が重要で、収縮期血10mmHg、拡張期血圧5~6mmHg低下すると脳血管障害の発生率は40%抑制されます。高血圧・脳卒中の予防には減塩、体重減量、運動が大切で、飲酒、喫煙は注意が必要です。

2.アンチ・エイジング(抗老化)とは?

個体老化のメカニズムはエネルギー代謝による活性酸素の産生と細胞分裂(寿命遺伝子)が関係して細胞老化・癌化が起こってきます。エイジング(老化)とは“ホルモンが減少し錆びてひからびる”ことであり、エイジングは治療可能な、少なくとも進行を遅らせることのできる病気であると考えられています。鉄がサビる(酸化する)、油が酸化するのと同じように、身体も日々酸化されて、シワ、しみや老化現象がおこります。活性酸素による酸化はさまざまな病気を引き起こし、細胞が破壊され、体を構成するたんぱく質や酵素などが変性したり、効力を失い機能しなくなります。老化はさまざまな病気を引き起こし、活性酸素による細胞障害がDNA・蛋白質を損傷するとがんが発生し、脂質の酸化は血管内皮・細胞膜の障害(心筋梗塞、脳梗塞)を引き起こします。この身体の酸化を予防するには抗酸化物質を摂取することが大切です。抗酸化物質にはビタミンC、ビタミンE、EPA・DHA、ポリフェノール、フラボノイド、カテキン、コエンザイムQ10、α-リポ酸などがあります。

3.予防医学における「食」の重要性

心筋梗塞抑制を目指したアメリカのマクガバン・レポート(1977年)は「病気の予防や治療にはその原因となる間違った食生活を改める必要がある.」 「世界の食生活のなかで、最も健康に良い食事は日本食である.」と結論づけています。和食は栄養バランスがよく(主食・主菜・副菜、一汁二菜・一汁三菜)、動物性脂肪が少なく、野菜が多い健康食です。近年日本人の食は欧米化し、外食・コンビニ食、脂肪が多い、摂取カロリーが多い、野菜が少ないなどの問題点があります。栄養バランスのよい食事とはエネルギー比率が炭水化物60%、たんぱく質15%、脂質25%といわれています。不飽和脂肪酸である「植物油」や「魚油」を積極的に摂り、食物繊維(1日20~25g)を十分に摂取しましょう。食物繊維には吸着作用と排便促進作用があります。食後の血糖値上昇抑制、ナトリウムの排泄、コレステロールの降下、排便回数と量の増加(便秘予防)、有害物質の毒性軽減(大腸がん予防)などの働きがあります。

4.メタボリック・シンドローム(肥満と生活習慣病)

近年では(1)内臓脂肪蓄積、(2)糖代謝異常、(3)脂質異常、(4)血圧高値などが個人に集積する心血管疾患易発症状態が心筋梗塞、脳梗塞を引き起こすとされ、メタボリック・シンドロームと呼ばれています。肥満によりインスリンというホルモンが効かなくなり(インスリン抵抗性)、内臓脂肪からアディポサイトカインと呼ばれる様々な生理活性物質が分泌されて動脈硬化が促進されます。メタボリック・シンドロームの診断基準は、①腹囲が男性で85cm以上・女性で90cm以上、②中性脂肪が150mg/dl以上、またはHDL(善玉)コレステロールが40mg/dl未満、③血圧が最大血圧130mmHg以上または最小血圧85 mmHg以上、④空腹時血糖110mg/dl以上の4項目。内臓脂肪型肥満があって(腹囲が男性85cm以上で)残りの3項目のうち2項目以上に該当するとメタボリック・シンドロームと診断されます。内臓脂肪型肥満があると血圧、血糖値、血中脂質が正常より少し高いだけでも心筋梗塞のハイリスク群になります。このようないわば心筋梗塞予備軍としてのメタボリック・シンドロームの人たちに警告を発して、生活習慣病にならないように“食と運動”を中心としたライフスタイルを改善してもらうのが重要です。食生活が豊かになる一方、外食やファーストフードなど日常における食生活の変化が食の「欧米化」を推進しており、また、年々日本人の運動量は低下しており、これが肥満増加への悪循環を招いています。近年20~30歳代の男性で動脈硬化が急増しており、最近十数年間で2倍に増えています。このままこのような状況が続くと近い将来の日本で心筋梗塞、脳梗塞が40代、50代で多発することになります。日本の将来を担う若者たちが若くして心筋梗塞で倒れることのないように、また中高年世代もいつまでも若く元気でいるために、もう一度“食”を中心としたライフスタイルを見直し健康に良い習慣を身につけて生活習慣病を予防しましょう。

5.健康長寿へのホップ・ステップ・ジャンプ!

  • 中高年:生活習慣病の予防(ホップ)
  • 前期高齢者:介護予防(ステップ)
  • 後期高齢者:介護ケア(ジャンプ)

中高年(~65歳 )では生活習慣病(癌、心筋梗塞、脳卒中)を予防し、あるいはこれを乗り越えることが重要で、糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症などに気をつけることが大切です。前期高齢者(65~74歳)は適応力・予備力はそれほど低下していませんが、危険な老化のサインとして転倒、骨折、尿失禁、痴呆、うつ、低栄養、足のトラブルなどがあげられます。介護予防に努め、運動機能(筋肉トレーニング:ストレッチ、スクワット、持久力:ウォーキング)、栄養のバランス、口腔内トラブル、痴呆予防に注意しましょう。後期高齢者(75歳~)は適応力・予備力低下がみられ、たんぱく・エネルギー栄養失調症、食欲不振、消化機能低下、便秘、脱水症、飲水・食事不足(水分・塩分不足)、腋下・口腔内乾燥、発熱、意識障害(せん妄)、脳卒中発作などへの対応が大切です。とくに栄養が重要で、摂食・嚥下障害は嚥下性肺炎や褥瘡を引き起こします。栄養を改善して廃用症候群を阻止し、認知症、老衰にならないようにしましょう。加齢に伴う筋肉量の減少(20~30%減)と筋力低下(Sarcopenia:筋肉減少症)は高齢者の転倒や骨折、身体的脆弱、日常生活機能の低下、寝たきりの原因となります。後期高齢者こそ十分なエネルギーと良質のたんぱく質の摂取が極めて大切です。

6.長寿を招く健康習慣

一番大切なことは「生きがい・目標」を持つこと! 今日の目標、3ヶ月先の目標、5年後・10年後の目標を明確に持つと、希望と生きる勇気がわいてきます。何のために長生きするのかをもう一度考えなおして、前向きに明るく生きること! 幸せな加齢のための条件は1.栄養、2.運動、3.人との交流、4.新しい概念の受容性、5.前向きな思考の5つです。