過去の記録

食は「県民性」では語れない ~食文化の境界線を歩く~

野田本社 2017年11月18日

概要

講師

野瀬泰申先生

 テレビで「ケンミン」番組が人気です。確かに各県で異なる食文化や食習慣は存在しますが、過去四半世紀にわたって各地の食文化の偏差や境界線を探ってきた経験からいうと、県単位では語れない違いの方が大きいと思っています。
 地域差を生む要因はいくつかあります。海沿いであれば昔からたんぱく源を魚介類に頼ってきました。対して山間部のたんぱく源は大豆や動物、あるいは昆虫でした。総務省の家計調査によると日本で最も豆腐を食べるのは、海から離れた盛岡市です。
 海沿いでもどんな海に面しているかによって食文化は違ってきます。例えば佐賀県の北部は玄界灘に面し、南部は有明海を抱えています。玄界灘と有明海でとれる魚介類は全く異なっていますから、食文化も当然異なります。有明海ではのりの養殖ができるのに、玄界灘ではできません。これに加えて寒冷地か温暖な地かということも食文化を規定します。意外かもしれませんが江戸時代にどの藩に属していたかも見逃せないファクターです。

 では具体的に見ていきましょう。材料は「NIKKEI NET」で私がやった読者調査をもとにした地図です。
 最初の設問は「カレーライスに卵を添えるなら生卵ですか? それともゆで卵?」。これは日本の東西ではっきり分かれます。西は生卵、東はゆで卵です。1910年に大阪の千日前で創業した「自由軒」が、冷めたライスを温めるため熱いカレールーをかけて混ぜた上で提供するようになりました。それに卵を加えるとすれば生卵でないと混ざりません。そこで客は生卵に当時出始めたウスターソースをかけて、ぐちゃぐちゃに混ぜて食べ、それが人気メニューとして定着したのです。このメニューはいまも自由軒の定番ですが、やがてほかの飲食店にも広がり、西日本全域を覆うようになったと考えられます。
 ではラーメンにナルト(かまぼこ)が入るのはどの辺りでしょうか。読者アンケートの結果は「東日本」でした。西日本でも入る地域はありますが、九州・山口と徳島県ではまず見かけません。ナルトが入らない地域は、同時にとんこつラーメン地帯でもあります。
 次の設問は「古くなった野沢菜やたくあんを煮ますか?」です。地図に落とすと京都府から日本海側の福井、石川、新潟、山形までは「煮る」地域です。これに岐阜と山梨が加わります。京都は古くなったたくあんを煮る「ぜいたく煮」という家庭料理があります。ほかの地域に共通しているのは冬場は雪に閉ざされるということです。冬場に野菜を取るためたくさん漬物を蓄えますが、春が近づくと漬物が酸っぱくなります。そこで煮て食べるのです。
 山形では、そのときサバの水煮の缶詰が必須です。特に中央部のスーパーに行くとサバの水煮缶が山のように積まれています。今は一年中新鮮な野菜が買えますが、季節の食べ物として廃れずに続いています。
 続いての設問は「あなたにとって肉といえば何の肉ですか?」。これに対する回答は東日本が豚、西日本、特に関西では牛でした。ですから肉じゃがの肉は東が豚、西が牛ですし、肉うどん・そばでも同様です。
 従って豚肉を使う中華まんのことを東では当然のこととして「肉まん」と呼びます。反対に関西では「肉は牛であって豚ではない」ので、区別して「豚まん」と呼ぶのです。
 さて「日本人はマグロ好き」と言われますが、本当でしょうか。家計調査でマグロの購入量が多い都市は静岡、甲府、宇都宮、相模原、前橋など、水揚げ港がある都市と山間部です。逆に少ないのは北九州、長崎、大分、福岡、佐賀など九州勢です。アジの購入量を見ると長崎、松江、佐賀、山口、大分など、上位10都市はすべて西日本で、マグロと正反対の結果になっています。「日本人はマグロ好き」ではなく「東日本の日本人はマグロ好き」なのです。

 このように地域によって食文化は様々な顔を見せますが、それはとりもなおさず日本列島の多様性を裏付けています。押し寄せる外国人観光客を呼び込む材料が各地に隠されているのです。

公開講座の様子
公開講座の様子
公開講座の様子

以上

2017年11月18日
キッコーマン国際食文化研究センター