in vitroでヒトプラズマサイトイド樹状細胞に対する乳酸菌K15の効果を確認
- 日本農芸化学会 2019年度東京大会で発表 -

2019年03月22日

国立大学法人千葉大学
キッコーマン株式会社

ポイント

  • in vitroでのヒトプラズマサイトイド樹状細胞に対する乳酸菌Pediococcus acidilactici K15(ペディオコッカス・アシディラクティシ K15)の効果を検証
  • 乳酸菌K15がヒトプラズマサイトイド樹状細胞のFcεRI発現を強く抑制することを確認
  • 乳酸菌K15がヒトプラズマサイトイド樹状細胞からのインターフェロンα産生を強く誘導することを確認
  • 乳酸菌K15はウィルス感染流行時における喘息患者の感染抵抗性を高めることが期待される

概要

キッコーマン株式会社【代表取締役社長 堀切 功章】(以下、キッコーマン)は、国立大学法人 千葉大学【学長 徳久 剛史】(以下、千葉大学)大学院医学研究院、国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下、産総研)と共同で、乳酸菌Pediococcus acidilactici K15(以下、乳酸菌K15)のin vitroでのヒトプラズマサイトイド樹状細胞(以下、pDC)に対する効果を確認した。

近年喘息患者が増加している。喘息患者はウィルスに感染すると重症化しやすいことが知られており、それにはpDC表面におけるFcεRIという受容体が関与することが報告されている。FcεRIはIgEと呼ばれる抗体と結合する受容体であり、FcεRIにそれぞれ結合したIgE同士がアレルゲンなどを介して架橋されると、ウィルス感染時のpDCからのインターフェロンα産生が著しく低下する。このインターフェロンαやインターフェロンβは感染への抵抗に重要であることが知られている。

これまでにキッコーマン研究開発本部、千葉大学大学院医学研究院 小児病態学(下条 直樹 教授)、産総研バイオメディカル研究部門は、乳酸菌K15が有する樹状細胞に対するインターフェロンα/βの産生誘導作用について検証してきた。今回、ヒトの末梢血由来pDCを用いた試験により、乳酸菌K15がインターフェロンαの産生を強く誘導するだけでなく、FcεRIの発現を強く抑制することを明らかにした。

今後、ウィルス感染流行時における喘息患者のQOL(生活の質)の向上に乳酸菌K15が活用されることが期待される。

なお、本研究成果は2019年3月24日~27日に開催される日本農芸化学会2019年度東京大会で発表される。

研究の社会的背景

腸内に常在している乳酸菌や食物に含まれるプロバイオティクス乳酸菌は人々の健康維持・増進に効果があることが知られている。その安全性の高さ、さらには発酵食品への応用の観点から、乳酸菌は食品・医薬品業界から非常に注目されている。乳酸菌の利用形態は生菌と死菌の2種類があり、ヨーグルトなどに代表される生菌には特に整腸効果について多くの報告がある。一方で近年食品利用が盛んに行われている死菌には特に免疫増強効果について多くの報告があり、さまざまな免疫疾患への効果が期待されている。

研究の経緯

キッコーマン、千葉大学、産総研は共同研究を行う中で、健康増進のために免疫機能を活性化する技術の開発を目指し、発酵食品由来の乳酸菌や食品成分の機能性に着目してきた。特にキッコーマンが独自に分離した乳酸菌K15の効果・効能について、千葉大学、産総研と共同でヒト細胞を用いた検証を続け、乳酸菌の応用に努めてきた。

研究の内容

被験者より採取した血液を用いてin vitroでの試験を実施した。末梢血よりpDCを単離し、乳酸菌K15の加熱菌体(死菌)と共培養した。そして、培養後のpDCの細胞表面に発現しているFcεRIの発現を評価するとともに、培養上清中のインターフェロンα濃度を測定した。

複数の乳酸菌株についてpDCからのインターフェロンα産生を評価した結果、乳酸菌K15が強いインターフェロンα産生誘導活性を有することを確認した。一方で、pDCの FcεRIの発現抑制については乳酸菌株によって異なっており、その中でも乳酸菌K15はFcεRIの発現を強く抑制した。

pDCのインターフェロンα産生を促進することは感染抵抗性の増強に繋がることから、乳酸菌K15摂取がpDCを介した感染抵抗性の増強に寄与する可能性が示された。また、pDCのインターフェロンα産生を阻害するFcεRIの発現が乳酸菌K15刺激により低下したことから、喘息患者のウィルス感染時の症状悪化を防ぐ可能性が見出された。

今後の予定

今後は乳酸菌K15の効果をさらに検証すると共に、ウィルス感染が流行する中でも喘息患者が健康的な暮らしを営むサポートができるよう、乳酸菌K15を含む食品の開発を進めていく予定である。

用語の説明

  • in vitro

    試験管や培養皿の中で、ヒトや動物の組織由来の細胞を用いて食品などの機能性を確かめる試験のこと。

  • プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)

    免疫細胞である樹状細胞の一種。体内に進入してきた抗原、微生物などを認識し、主としてインターフェロンα(感染抵抗に関わる物質)の産生を行うことで、ウィルスに対処する。

  • 乳酸菌

    代謝により糖から乳酸を生成する細菌の総称。ヒトの腸内に常在している。さまざまな加工食品、発酵食品にも含まれており、日常的に摂取されている。

  • Pediococcus acidilactici K15

    ぬか床から分離した乳酸菌。これまでの研究成果から、樹状細胞に作用し感染抵抗に関わるインターフェロンβ、抗アレルギー作用に関わるインターロイキン12を誘導することがわかっている。
    Kawashima T, Ikari N, Watanabe Y, Kubota Y, Yoshio S, Kanto T, Motohashi S, Shimojo N and Tsuji NM (2018) Double-Stranded RNA Derived from Lactic Acid Bacteria Augments Th1 Immunity via Interferon-β from Human Dendritic Cells. Front. Immunol. 9:27. doi: 10.3389/fimmu.2018.00027

  • FcεRI

    IgEに対する高親和性の受容体。pDCやマスト細胞(アレルギー反応を起こす原因細胞)などの免疫細胞の表面に発現している。

  • IgE

    アレルギーや喘息患者が多く有する抗体。

  • プロバイオティクス

    人体に有益な作用をもたらす微生物、およびそれを含む食品。

学会発表情報

日本農芸化学会 2019年度東京大会(東京農業大学)
Pediococcus acidilactici K15株のヒトプラズマサイトイド樹状細胞に対する効果
碇菜穂、川島忠臣、久保田芳郎、下条直樹、辻典子