キッコーマン食文化講座

しょうゆの科学 ~主役は微生物~

日程 2010年8月25日
場所 野田本社
講師 田上秀男先生
主催 キッコーマン国際食文化研究センター
  1. 1こいくちしょうゆの主原料は大豆、小麦、食塩であり、大豆はタンパク質、小麦はデンプンとタンパク質の供給源である。食塩は塩味の素であり、醸造中の腐敗を防止する役割を担う。大豆は蒸すが、これは加熱殺菌と生のタンパク質の分解性をよくするためである。小麦は炒るが、加熱殺菌とデンプンの分解性向上それに割砕しやすくするためである。
  2. 2砕いた粉の部分と粗い部分が混じった状態で使う。粉の部分は大豆の表面を塗す形になる。蒸した大豆は60%位の水分が有り、非常に腐りやすく、そのままにして置くと納豆になり易く、しょうゆ作りは納豆を作ることではなく、麹菌を増やさなければならないから、大豆の表面を粉で覆い、水分量を調整し、細菌が生えにくく、麹菌が生え易い環境を作る。麹菌は空気を好むから、小麦の粗い部分を使って通気性を良くする。畑の土には腐葉土などを入れて通気性を良くするが、その様な状態と同じく非常に通気性の良い状態にする効果がある。
  3. 3小麦のデンプンからは、微生物の働きによりブドウ糖、グルタミン酸、乳酸、エチルアルコールなどの主要な香味物質が生成される。また、色物質やしょうゆに特有な香り成分も生成される。
  4. 4しょうゆ作りでは、蒸した大豆と炒って砕いた小麦を混合したものを全て使用して麹を作る。それは多量に酵素を必要とするからである。主要な酵素はタンパク質からアミノ酸を作るプロテアーゼ及びペプチダーゼ、デンプンからブドウ糖を作るアミラーゼなどである。
  5. 5麹菌以外の微生物には諸味中で働く耐塩性乳酸菌、耐塩性酵母があり酵母には主発酵酵母と熟成酵母がある。乳酸菌と言えばヨーグルトやチーズなどの乳製品を思い浮かべるが、しょうゆ作りにもそれとは異なる乳酸菌が関与する。
  6. 6こいくちしょうゆの製品の食塩分は約16%で、諸味中における原料成分の溶解・発酵・熟成も約16%の食塩濃度で進行する。諸味での食塩濃度が15%以下では濃度が下がれば下がるほど醸造が難しくなる。
  7. 7酵母は種々な香気成分を生成するほかに、コハク酸やグリセロールといった味に関与する成分も作る。しょうゆ中には約300種類の香気成分が確認されているが、その中でもしょうゆに特徴的な成分は主に酵母が生成する。
  8. 8香気成分にはリンゴ、バナナ、パイナップル、バラなどに含まれる成分がある。
    しょうゆの最大の魅力とも言える加熱時の香ばしい香りは、糖分とアミノ酸からアミノカルボニル反応で副生するピラジン化合物やアルデヒド化合物などである。
  9. 9しょうゆの色はアミノカルボニル反応でできる「メラノイジン」という物質だが、これは非常に多数の似た構造で、大きさもまちまちの複合系である。諸味中での反応は弱酸性下にて還元状態で進行するため赤味のある色物質ができる。一方、製品になってからは空気中の酸素による酸化反応が主で黒色化する。
  10. 10しょうゆは腐敗しにくく、唯一酵母の仲間が生えるが健康危害は生じない。