キッコーマン食文化講座

トマトが赤くなると医者が青くなる!なぜ? ~トマトで家族いっしょに健康生活~

日程 2012年7月30日
場所 野田本社
講師 高田式久先生
主催 キッコーマン国際食文化研究センター

自分の栄養状態を自己判断することは難しいことです。世界保健機構(WHO)の“栄養失調”の定義では体が必要としている栄養素およびエネルギーの細胞不均衡とし、欲しい細胞に栄養が行き届いていない状況が多いと考えています。例えば、骨密度とカルシウム摂取量の関係で見ると、1日のカルシウム摂取量は日本女性平均538mg、60代女性591mg、骨粗しょう症予防レベル800mgとされていますが、それぞれ摂取群の腰椎骨密度はどの摂取群でも0.75-1.25g/cm2であり、個人的なばらつきが大きいことが分かります。食事はきちんと取っていると思っても、栄養が十分か自己判断し難いものであると知る必要があります。農林水産省の示す食事バランスガイドが参考になります。

私たちの体は約60兆個の細胞からなり、その1個1個の細胞を元気にすることが健康を保つということです。そのためには、食品標準成分表の主要栄養素として取り上げられる糖質、食物繊維、たんぱく質(アミノ酸)、脂質、ミネラル、ビタミンに加え、成分表に記載されていない非栄養素(細胞レベルの劣化を抑制し正常に保つ成分群)が必要です。これら非栄養素はファイトケミカルと呼ばれ、果実や野菜に多い成分です。ファイトケミカル成分は、生活習慣病予防効果、免疫力強化、がん予防効果があり、種々の成分が総合的にこれら3効能を発揮していると考えられています。トマトに含まれるファイトケミカルには、食物性繊維、リコピン、ポリフェノール類などがあります。

ファイトケミカルの一つであるトマトの食物性繊維には、セルロースとペクチン質があります。セルロースは便の量を増やし、便の腸内滞留時間を短縮させます。ペクチン質はコレステロールを体外に排出する効果があり、食物性繊維は腸内細菌の生育エネルギー源としても使われ、間接的に腸管の免疫力を高める効果があるとされ、数多く示されています。最近発表された厚労省の調査(2006-2011発表)では水溶性・不溶性食物性繊維の摂取量が多いと大腸がん発症危険度、脳卒中発症危険度、循環器病発症危険度が下がり、特に女性に顕著な効果を示しました。男性は喫煙率の高さがこれら健康改善効果を消していると評価され、喫煙の健康への悪影響も同時に示された結果となりました。

ファイトケミカルの代表成分であり、最も強い抗酸化成分の一つであるリコピンがトマトに特に多く含まれています。運動、紫外線、放射線、食品、ストレス、タバコ、酒、炎症などの刺激により一部の酸素が活性酸素に変化します。この活性酸素は体内の無毒化反応で消えますが、活性酸素が多すぎると、体の脂質、たんぱく質、遺伝子にダメージを与えます。これら活性酸素を無毒化する植物成分が抗酸化成分として注目されています。リコピンはトマト細胞内に存在するため、細胞が少し壊れているトマト加工品を少量の油と摂取すると吸収量が高まります。リコピンは人体内の特定の臓器、副腎、睾丸、肝臓に高濃度で偏在します。

アメリカでの疫学的研究の結果、多くの食材項目の中からトマト、そして成分のリコピンが前立腺がん発症危険度を低めることが示されました。リコピン摂取の前立腺がんへの直接影響事例として、Wayne州立大学がんセンターが、手術予定者26名の内15名にリコピンを3週間摂取させ、手術でがん組織の侵潤状態、がん細胞重量などを非摂取群と比べ、リコピン摂取が前立腺がんを抑制すると報告しています。さらに前立腺がんの発症機作も分子レベルで示され、リコピンが抑制するモデルが提示されています。これまでの基礎研究ではリコピンには3つの重要な栄養的機能が示唆されています。

  1. 1高い抗酸化力に由来する機能
  2. 2細胞間コミュニケーションを改善する機能
    • 隣同士の細胞を認知する機能
  3. 3 細胞の正常死を促す機能
    • がん細胞は死を忘れた細胞

これら特性と疫学調査を踏まえ、リコピンには次の保健効果が期待されています。

  • 前立腺がん予防効果
  • 肝臓の健康維持
  • 心筋梗塞予防効果
  • 膵臓がん、肺がんなどの予防効果
  • 骨粗しょう症予防
  • 白内障予防
  • 皮膚の保護

リコピンとその他の栄養成分との組み合わせが疾病防止に有効という研究も多く、種々の食事の一環としてリコピンも摂取することが大切です。個人的差を考慮すると毎日20mg位のリコピン摂取を推奨します。トマトジュースコップ1杯分に相当する量です。

トマトにポリフェノールのナリンゲニンカルコンという成分が見つかり、花粉症の症状を軽減する効果が得られています。また、トマトの種の中にコレステロール上昇抑制効果があるトマトシドAという新規物質が見つかるなど、新規機能が期待されています。

キッコーマンはトマトに関わる食育活動にも力を入れています。毎年小学校にトマト苗を提供し、トマトを育てる楽しさを知ってもらっています。絵日記には大人では考えられないような観察結果が表現されています。更に別の体験ツアーでは、親子でトマト畑で加工トマトを収穫し調理して食べるツアーで、大変好評です。いずれのケースでも子供は生き生きとした表情を見せます。

筑波大学名誉教授の村上先生は「心は遺伝子の発現を調節する」と話しておられます。糖尿病患者の血糖値を事例に、多くの人と漫談を聴いた患者の血糖値は上がらず、一方難しい話を聞いた患者の血糖値は上がるのだそうです。同じような研究がアメリカでもなされ、精神的な緩和は病気を軽減することが認められています。

トマトも栄養成分があるから食べるのみではなく、赤くなるトマトを育てる楽しみ、調理する楽しみ、そして家族と食べる楽しみを、味わうことが大事だと思います。トマトが赤くなると医者が青くなる。その理由はこんな所にあるのではないでしょうか?