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過去の展示

-醤から醤油へ-しょうゆ発達小史

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18世紀
18世紀の醤油のつくり方
 18世紀に入ると、醤油の製法は完成期を迎える。大豆・麦・塩の配合割合は三者がほぼ同量で、水の量は大豆と麦の容積を加算した量と同量で食塩水をつくり、仕込むようになる。この割合は、現在「十水仕込 とみずじこみ 」と称されるもので、この時代以降どの文献も大体同様の記述となる。
『和漢三才圖會 わかんさんさいずえ (正徳5年<1715>刊)
【醤(和名は比之保 ひしほ ) わが国では俗に油の字を加える。まだ搾 しぼ らないものを「醤 ひしほ 」というので、醤と醤油は別物としてよい】
【醤油には大麦を原料にしたものと、小麦を原料にしたものがある。つくり方は、大豆一斗をよく煮る。精白した麦一斗を炒って粗 あら く挽く。これらを一緒にして麹 こうじ をつくる。塩一斗と水二斗五升を混ぜて煮る。これを冷まして桶に入れ、そこに豆麦麹を入れてよく撹拌 かくはん する。夏は七十五日、冬は百日で出来上る。これを搾り、油を取る。油を取った液を一度煮る。色は黒くなるが、味はよい。搾った渣 かす を使って再び仕込み、同様の方法で液を取る。これを「二番醤油」といい、味はすこぶる劣る。市販されているおおかたの醤油は、みな小麦を用いており、大麦を使ったものは味がよくない】
『萬金産業袋 ばんきんすぎわいぶくろ (享保17年<1732>刊)
【小麦一石をよく焙って、ざっと挽き割り、白豆(大豆)一石をよく煮て、先程の小麦と一緒にしてかき混ぜ「麹蓋 こうじぶた 」に入れ麹をつくる。糀 こうじ の花が咲いたなら、水二石に塩八斗を入れた塩水と混ぜる。それを六十日程よくかきまわす。酒の場合は「寒造り」といって寒いときにつくるのが専らであるが、醤油は夏の土用に仕込み、秋の末になって出来上るのを、よしとする。このようにしたものを熟成させて搾れば、当初の量から醤油が二石六ないし七斗程できあがる。
これをこのままの状態で使えば「生 なま 醤油」なので、風味がよく、軽やかで、暑い時でもカビが発生せず、よろしいものである。しかしこの方法で造った醤油は、市販されているような安価ではつくれないので、(諸味増量材として酒粕を使う)「もどし」という方法を用いてつくる。】
『萬金産業袋』
『萬金産業袋』
 現在の醤油醸造では、品質が高く歩留りのよい醤油をつくる条件の一つは、夏場の仕込を嫌って、寒い季節に仕込むということがある。『萬金産業袋 ばんきんすぎわいぶくろ 』が書かれた時代は、醤油諸味の温度管理は夢のような話しで、諸味の発酵と熟成は自然に任せるより仕方がなかった。しかしそうした中にあって、いつの時期に仕込めば、旨い醤油を、効率よく多量につくることができるか、体験的に技術を確立していった。それが「夏の土用に仕込み、秋の末に出来上るのをよしとする」ということなのだろう。これは、まったく的を得ていない訳ではないが、当時の技術レベルでは仕方がなかったのであろう。
 一方、二つの文献でも共通しているのは、発酵と熟成期間が短いという点である。60日から100日前後という期間のため十分な発酵と熟成が行なわれず、品質的には未完成の段階で搾ってしまう。このため「色は淡 うす く、香りも余り立たず、旨味が薄く、塩味が立った醤油」と推定でき、煮炊き用として使うならともかく、直接掛けたり、浸けたりする使い方には向いていない。
 しかし、いずれにしても、現代の濃口 こいくち タイプの醤油にかなり近づいてきていると考えられる。
長崎・出島からの「醤油の輸出」
 以上見てきたように、16世紀から17世紀にかけて、わが国の醤油づくり技術は大きく進歩し、調味料として質も向上していった。
 その結果、「醤」発祥の中国の醤系調味料を質的な面で凌駕した。そして17世紀中期以降、醤油は長崎を経てオランダ船や中国船により中国や東南アジア地域の華僑向けに、さらには18世紀に入るとヨーロッパにまで送られた。
 現在残されているオランダ東インド会社の『長崎商館仕訳帳』によると、醤油の正式な輸出(本方 もとかた 荷物)は、正保4年(1647)に始まり、寛政4年(1792)まで続けられたことが判る。
 このうち、元文 げんぶん 2年(1737)から、宝暦10年(1760)までの24年間、長崎→バタビア(現ジャカルタ)→オランダというルートで、日本の醤油がヨーロッパに運ばれている。その全量は15,571リットルで、年間平均700リットル強となる。
 こうした事実は、わが国の醤油が当時から調味料として優れたものであり、東洋人だけでなくヨーロッパの一部の人々からも、高い評価を受けていたことの証拠といえる。
寛文年間(1661-1673)の醤油輸出記録(オランダ・ハーグ国立中央文書館蔵)
寛文年間(1661-1673)の醤油輸出記録(オランダ・ハーグ国立中央文書館蔵)
18世紀