老舗そば店のご主人が伝授!お家でそばをおいしく

講師

堀井 良教 先生(「総本家 更科堀井」九代目当主)

豚汁せいろの豚汁の写真
豚汁せいろの写真
調理風景
「総本家 更科堀井」九代目当主の堀井良教先生と十代目の堀井良光さんの写真

2025年11月29日KCC食文化と料理の講習会は、「総本家 更科堀井」九代目当主の堀井良教先生をお招きし、「老舗のご主人が伝授!お家でそばをおいしく」をテーマに開催しました。

講習会のレポート

堀井先生は大学卒業後、家業のそば店の再建に取り組み、途絶えていた「更科」の暖簾を父とともに復活させました。「江戸そば」の味を再現し、再び「そばの名店」としての評価を得て今日に至っています。現在は海外でのそばの紹介や、日本の食文化の継承・発展にも尽力。2025年には、江戸そばの伝統を守りながら新たな可能性を追求した功績が認められ、「現代の名工」に選出されました。
今回は十代目の堀井良光さんとともに、そばのゆで方など、家庭でそばをおいしくつくるコツをご紹介いただきました。なぜ、江戸でそばが愛されたか?など、そばの魅力をひもとく話も伺いました。
間もなく迎える年越しのひととき。大晦日にはぜひ今回の「そばをおいしくする秘訣」を生かして、ご家庭で特別な『年越しそば』を味わってみてください。

江戸っ子がそばを愛した理由。健康を支えた驚きの栄養価

そばが江戸で普及したのは1800年代中頃。江戸末期には江戸市中に3,700軒以上ものそば屋が並ぶほど、江戸っ子の誇りとして愛されていました。

    • 江戸のファストフード

      高温多湿な江戸の町で、職人や商人が仕事の合間に1分ほどでサクッと食べられる効率的な食事として定着しました。特に芯の部分を使った「白いそば」は、お殿様の屋敷へ届けて時間が経ってもくっつきにくいという特徴から発展したものです。

    • 江戸の健康を支えた栄養食

      当時、白米を好む江戸っ子の間でビタミンB1不足による「江戸患い(脚気)」が流行しましたが、ビタミンB1を豊富に含むそばは、その健康効果から幕府も奨励するほど重宝されました。また、そばのアミノ酸スコアは非常に高いため、肉食が少なかった時代、貴重なタンパク源として江戸の人々の活力を支えていたのです。

乾麺がお店の味に!ゆでる前の「5分間の水浸け」

市販の乾麺を使って、まるでお店のような喉越しと香りを引き出す秘訣は、ゆでる前のひと手間にあります。

    • 1.ゆでる前に「5分間」水に浸ける

      乾麺をゆでる前に5分間ほど水に浸けておきます。こうすることでグルテンが緩み、ゆで上がりが早くなるだけでなく、そばの角がピンと立って香りが飛びにくくなります。この場合、ゆで時間は表示より1分ほど短くしてください。

乾麺のそばをバットで見ずに浸けている画像
    • 2.「腰を立てる」ための急冷

      ゆで上がったそばは、まず流水で粗熱とぬめりを取り、最後に氷水できっちり締めます 。そばにアルデンテはありません。芯までしっかり火を通した後に急冷することで、そばの「腰が立つ」状態になるのです。

老舗秘伝「返し」と「出汁」の黄金比

そばの美味しさを左右するのは「つゆ」のうま味です。しょうゆのグルタミン酸とかつおのイノシン酸があわさることで、まるで魚や肉を食べているような満足感が得られます。

    • 「返し(かえし)」の自作テクニック

      しょうゆ、砂糖、みりんを合わせますが、砂糖はあらかじめ少量の水で溶かして「ガムシロップ状」にしてから加えると、味が決まりやすくなります。しょうゆは「キッコーマン 特選 丸大豆しょうゆ」を使うのが老舗のおすすめです。

鍋で砂糖(てんさい糖)を入れて火にかけ、ガムシロップ状にしている画像
    • 「厚削り」のかつお節で濃厚に

      そば屋のつゆは、厚いかつお節(本枯節)を45分ほど煮詰めて作ります。家庭でやる場合は、厚削りを少し砕いてから5分ほど煮出すとうま味が出やすくなります。アクが少し出てきますが、最初の方に少しとるだけで構いません。

厚いかつお節(本枯節)の画像

そばの香りを楽しむ「粋」な食べ方

    • そば屋の粋な盛りつけ「四つ盛り」

      そば屋でよく実践されるのが、一度にどさっと盛らずに「4つのセクション」に分ける方法です。隣の山へそばが流れ込まないよう、箸で取った分がそのまま垂直に持ち上げられるようにするのが「粋」な盛りつけのポイント。見た目が美しいだけでなく、余分な水気がしっかり切れる効果もあります。

    • 「口中香(こうちゅうか)」を味わう

      そばは鼻から直接嗅ぐ香りではなく、すすった時に口から鼻へ抜ける香り(口中香)を一番に楽しみます。音を立てて「すする」ことでより口中香を楽しむことができます。

    • つゆのつけ方とマナー

      「つゆを少ししかつけないのが粋」と言われますが、どっぷりつけてはいけない決まりはありません。ただし、ゆでたてのそばは鮮度が命。出されたらおしゃべりを止めてすぐに食べるのが最高のマナーですね。

冬におすすめのレシピ「豚汁せいろ」

      • 鴨肉の代わりに、豚肉を使った手軽に楽しめるメニュー

        具材は豚ばら肉、玉ねぎ、パプリカ、貝割れ。豚肉に火を通した熱いつゆを、さらした玉ねぎの上からかけるのがコツです。玉ねぎは煮込まず、予熱で軽く火を通すことでシャキシャキとした食感がアクセントになります。

豚汁せいろの画像

講習会ダイジェスト動画

講習会のレシピ

返しのつくり方

材料:出来上がり 約550ml
キッコーマン 特選 丸大豆しょうゆ 500ml
てんさい糖 85g
50ml​
マンジョウ 米麹こだわり仕込み 本みりん 50ml
つくり方
  1. 1鍋に水を入れ、てんさい糖を入れて火にかけ、温めながらてんさい糖を溶かす。
  2. 2別の鍋にしょうゆ、みりんを入れて中火にかけ、温まったところで(1)を加えて火を強める。​
  3. 3表面が白くなったら、沸騰しないうちに火を止める。​
  4. 4冷めたら瓶などに移し、冷蔵庫で保存する。

だしのひき方 

材料:出来上がり 約320ml  
鰹枯節(かつおかれぶし) 25g
水  500ml​
つくり方
  1. 1鍋に水を入れて沸騰させ、鰹枯節を入れる。
  2. 2強火で5分煮詰める。
  3. 3(2)をさらしなどの布で濾す。​

返しの使い方 

料理ごとの割合一覧
返し1:みりん1 焼き物のたれ
返し1:出汁1:みりん1 煮魚のベース​
返し1:出汁3 そば汁・丼つゆ
返し1:出汁4 天つゆ・おひたし​
返し1:出汁5 おでん・鍋物
返し1:出汁6 ぶっかけ汁・野菜の煮つけ​
返し1:出汁7 ねぎま鍋・つみれ汁​
返し1:出汁8 かけ汁​

豚汁せいろ

材料:2人分
そば(乾) 2人分
だし ※だしのひき方参照 320ml​
返し ※返しのつくり方参照 70ml
豚ばら肉しゃぶしゃぶ用 100g
玉ねぎ(薄切り) 適量
パプリカ(さいの目切り) 適量
貝割れ菜 適量
柚子こしょう 少々(好みで)
つくり方
  1. 1

    そばをおいしくゆでる

    そばはゆでる前に、3~5分ほど水に浸す。 
  2. 2たっぷりの湯をしっかりと沸騰させ、そばを入れて、表示より1分ほど短い時間でゆでる。
  3. 3ゆで上がりは氷水につけて確認する。​
  4. 4ゆで上がったら、流水でよく洗い、氷水につけてしめる。
  5. 5余分な水けをきる。​
  6. 6

    豚汁をつくる

    返しとだしを合わせてつゆをつくる。
  7. 7鍋に(6)のつゆを入れて温め、沸騰前に豚ばら肉を入れて、色が変わったら火を止める。
  8. 8豚汁の器に玉ねぎを入れ、(7)の豚ばら肉を入れて温かい汁をはる。​
  9. 9パプリカと貝割れ菜をのせる。
  10. 10

    盛りつける

    (5)のそばを器に盛りつけ、(9)の温かい豚汁を添え、好みで柚子こしょうなどを添える。
講師

堀井 良教 先生(「総本家 更科堀井」九代目当主)

大学卒業後、家業であるそば店の再建に取り組み、一時途絶えていた「更科」ののれんを父とともに復活。戦前にのれん分けした更科一門の協力を得て、昔ながらの「江戸そば」の味を再現。再び「そばの名店」としての評価を得る。現在は、海外でのそばの紹介や、日本の食文化の継承・発展に尽力。2025年には、江戸そばの伝統を守りながら新たな可能性を追求した功績が認められ、「現代の名工」に選出される。
「総本家 更科堀井」は1789年創業の東京・麻布十番にある老舗そば店。そばの芯を使った白い「更科そば」や、季節の素材を練り込んだ「変わりそば」で知られる。

公開:2025年12月25日

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