素材のちからとは
素材の生産者や輸入者のそれぞれの製品に対する思い入れや育てる愛情、漁獲・収穫の苦労、生産・加工の難しさ、そうした努力のすべてを“素材のちから”と捉え、メーカー・商社・生産者の商品情報を直接取材して使い手である調理の現場へお届けするフリーマガジンです。
今回は、『素材のちから』第60号(2026年春号)より「キッコーマン 濃縮だしシリーズ」特集記事を抜粋してご紹介します。
キッコーマン「濃縮だしシリーズ」は、だし原料を高濃度のアルコールで抽出したエキスをベースに、各種調味料をほどよくブレンドして、香り、旨み、コクをバランスよくまとめた高濃度の濃縮だしです。
200倍に希釈しても、香りと旨みがしっかり広がる。
ますます〝だし〟の原料は
手に入りにくくなる
料理は〝だし〟で決まるといわれるが、とりわけおでんのような料理は使う素材も工程もシンプルなだけに、〝だし〟の良し悪しが味わいとなってはっきりと表れる。皆さんのお店でも、〝だし〟を大切に、日々の料理を提供していることだろう。
しかし、最近「いいかつお節が手に入らなくなった」という声をあちこちで耳にする。こんぶやいりこも同じだ。気候変動による海の変化や漁業の担い手不足などが影響し、かつお節やこんぶ、いりこなどの生産量は大きく減少しているという。
このため、だし原料の価格は近年大きく上昇している。かつお節やこんぶから〝だし〟を引くお店はもちろん、さらに液体だしや顆粒だしを使っているお店でも、コスト面で重い負担になっているのではないだろうか。
独自の抽出技術によってだし原料を
無駄なく活用
今回紹介するキッコーマン「濃縮だしシリーズ」は、こうした環境変化を背景に、外食店の〝だし〟に関する課題に貢献する製品といえる。
だし原料の香りや旨みを独自の抽出技術によって丁寧に引き出し高濃度に凝縮。原料の使用効率を高めながら、安定した品質を実現している点が特長だ。
それは単なる効率化を目的としたものではなく、限りある原料を無駄なく活用し、その魅力を安定して届けようとする姿勢の表れでもある。
原料事情が厳しくなっている今、技術によって〝だしの価値〟を引き出そうとする。「濃縮だしシリーズ」は、外食店にとって現実的で、前向きな提案だ。
「濃縮だしシリーズ」をほんの数滴、器に落とす。そこへ熱い湯を静かに注いだ瞬間、湯気とともに深く澄んだ香りがふわりと立ち上がり、ひと口含めば、上品で奥行きのある旨みが口の中に広がる。
まるで目の前で引いた〝だし〟のようだ。これこそ「濃縮だしシリーズ」の持ち味、香り立ちのよさと深い旨みを持っている。最も注目すべき点は、200倍に希釈して使える、その高い濃縮度だ。
たとえば、「濃厚こんぶだし」は、小さじ1杯(6g)で10人分の味噌汁をつくることができる。香りと旨みののびが素晴らしく、これほど凝縮された液体だしは珍しい。
それでは、キッコーマン食品(株)を訪ね、「濃縮だしシリーズ」について詳しく伺ってみよう。
この凝縮感は、原料へのこだわりとアルコール抽出から生まれる。
(左)プロダクト・マネジャー室 肥後 巧 さん
(中央)商品開発本部 調味料開発部 杉山 あい さん
(右)商品開発本部 調味料開発部 チームリーダー 中村 文香 さん
「濃縮だしシリーズ」の注目すべき点が、その希釈倍率の高さにあることはお伝えした。なぜこれほどまでに香りも旨みものびるのか。その凝縮された〝だし〟の秘密を取材した。
高濃縮が実現できる秘密は
だし原料の調達にある
中村 「濃縮だしシリーズ」が高濃縮を実現できる秘密はいくつかありますが、まずは〝だし原料の安定した調達〟にあります。
しかし、かつお節、こんぶ、いりこといっただし原料の生産量は年々減少しています。海水温の上昇による漁獲量の減少、漁業者の減少、燃料費や人件費の高騰などがその背景にあります。
実際に、かつお節の原料となるかつおの漁獲量は過去最低を更新しました。煮干しの生産量は20年で約2分の1に、こんぶは30年で約3分の1にまで減少しています。しかも、現時点で回復の見通しは立っていません。
こうした状況のなか、弊社では以前から開発と購買のスタッフがともに産地へ足を運び、生産者の方々と直接コミュニケーションを重ねてきました。顔の見える関係を築き、産地との信頼を積み重ねることで、原料の安定確保と品質の見極めを両立させています。
料理人が自分のお店で使う素材を突き詰めるために産地を訪ね、生産者の声を直接聞くのと同じ姿勢です。
かつお節は国内製造、こんぶは函館・白口浜で採れる真こんぶ、いりこは瀬戸内海や九州を中心とした国産原料にこだわって使用しています。
さらに生産工程にも大きな秘密がある
杉山 秘密は生産工程にもあります。工場に搬入した原料は抽出直前に割砕します。削りたてのかつお節が最も香り高いように、香りと旨みが最大に立ち上がる瞬間で抽出するのです。
「濃縮だしシリーズ」は既製のエキス原材料を調合する製品ではありません。原材料表示に、かつお節エキスやこんぶエキスなどの表示がないのはそのためです。原料からつくる、だからこそ香りも旨みも強いのです。
中村 さらに抽出は熱水抽出・高濃度アルコール抽出という独自の技術で行います。抽出の溶媒は熱水と高濃度のアルコールの両方を使います。だし原料に含まれる成分には、水に溶けやすいものと油に溶けやすいものがあります。
アミノ酸や核酸系の旨み成分は主に水溶性であり、熱水抽出によって効率よく引き出すことができます。一方で、主要な香気成分や一部コクの成分などは脂溶性であり、水だけでは十分に抽出することができません。
そこで用いられるのが、高濃度アルコール抽出です。アルコールは水と油の両方になじむ性質を持っているため、水溶性成分だけでなく脂溶性の香り成分や旨み成分まで引き出すことができるのです。特に脂溶性成分には、香ばしさや深みを形成する重要な要素が多く含まれており、これらを効率よく抽出することが〝濃厚さ〟につながります。
熱水抽出と高濃度アルコール抽出を組み合わせることで、水溶性の旨みと脂溶性の香り、コクの両方を余すことなく引き出すことができます。その結果、香りも旨みも力強い、奥行きのある味わいを実現しているのです。
杉山 次に、こうして抽出した液を減圧濃縮します。
減圧することで水やアルコールの沸点が下がり、抽出液に熱のダメージを与えることなく濃縮することができます。
水よりも沸点の低いアルコールは、引き出した香りや旨みを残したまま蒸発します。これをさらに濃縮することで、香りと旨みがぎゅっと凝縮されたエキスが生まれます。
そして、このエキスをベースに調味料をブレンドして完成するのが「濃縮だしシリーズ」です。こうしてできあがった高濃度の濃縮だしは、加熱しても時間が経っても香りが持続しやすくなります。
「濃縮だしシリーズ」が広げる可能性
肥後 一般的な濃縮だしは、旨みを強くしようとすると塩味も濃くなり、料理そのものの味を損ねてしまうことがあります。
しかし、希釈倍率の高い「濃縮だしシリーズ」は塩分を気にすることなく、だし本来の旨みを自在に表現することができます。味のブレがなく、誰でも安定した味を再現でき、しかも手軽でコストパフォーマンスにも優れています。
本当は、きちんとだしを引きたい。けれど、人手不足や労働時間の制限、原料価格の高騰といった現実的な課題に直面してあきらめざるを得ない、そんなお店にこそ使っていただきたい。料理人の皆さんが、もう一度〝理想の一皿〟を追求できるように、「濃縮だしシリーズ」はそのお手伝いができる存在でありたいと願っています。
さらに「濃縮だしシリーズ」を通じて、より幅広いお客様に〝だし〟の価値を再認識いただき、そして、このだしを世界へ届けることで、日本の味、日本の食文化を発信していけることを願っています。
さて、このように高い濃縮度を持つ「濃縮だしシリーズ」を、料理人の方々はどのように評価するだろう。居酒屋、うどん店、日本料理店で使っていただいた。どうぞご覧いただきたい。
おでん 二毛作
「濃縮だしシリーズ」は、少ない量で
香りと旨みが本当によくのびます。
「濃縮だしシリーズ」は、だしのレベルを一気に引き上げ、手間もコストも抑える、外食店の強い味方です。
ご主人 日髙 寿博 さん
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おでん 二毛作
東京都葛飾区立石2015年創業。京成立石駅から徒歩2〜3分にある人気の居酒屋。木のカウンター席の落ち着いた雰囲気は、いかにも下町らしい。看板メニューは〝おでん〟。大根、玉子、がんもなどの定番から、〝トマトおでん〟などの変わり種も楽しめる。だしが染みた味わいは、お酒との相性も抜群だ。
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居酒屋でおでんをやるならこのだしを
すすめます
まず、「濃厚かつおだし」と「濃厚こんぶだし」でおでんをつくってみました。今回は、なるべく私どものお店の味に近づけるように仕上げました。
おでん
「濃厚かつおだし」と「濃厚こんぶだし」の割合は1対1、あとは水と酒と塩。シンプルなだしにおでん種の味が加わり、酒と相性がいい二毛作のだしができ上がる。
私どものだしは、こんぶを水から入れて火にかけ、次にかつお節を加えてだしを取ります。そこに酒と塩を加えた、シンプルなだしです。
「濃厚かつおだし」と「濃厚こんぶだし」で味を決めていく中で、その希釈倍率の高さには驚きました。
少ない量で、香りと旨みが本当によくのびます。かつおとこんぶの割合は1対1。最初は少しかつおを多めにしようかと思いましたが、何度か試すうちに1対1が一番しっくりきました。
だしをたっぷり含んだ大根は、箸を入れるとすっとほどけ、口に運ぶとじんわりと旨みが広がります。玉子やちくわにもやさしくだしが染み込み、噛むほどにかつおの香りとこんぶのコクが重なります。澄んだつゆの中に、奥行きのある旨みがしっかりと感じられ、イメージ通りの味わいに仕上がりました。
「濃縮だしシリーズ」は、私が引いただしと比べても80点、いや90点をつけてもいいのではないでしょうか。居酒屋でおでんをやるなら、これを使うのは本当におすすめです。
最近は、だしの原料が手に入りにくくなり、価格も倍近くに上がっています。どうしても量を使うのでコストがかかります。その点、「濃縮だしシリーズ」は少量でしっかり風味が出るため、コスト面でも大きなメリットを感じました。
時間が経っても風味が残りだしの
存在感が続きます
次に、おでんには茶飯を合わせることが多いので、 〝切り干し大根と油揚げの炊き込みご飯〟を炊いてみました。「濃厚いりこだし」は少量を加えます。5合を炊くのに大さじ1杯(18g)くらいの目安でしょうか。
炊き上がったご飯のふたを開けると、いりこの香りがふわりと立ちのぼり、やさしい甘みが広がります。切り干し大根と油揚げがだしをよく吸い、いりこの旨みがしっかり生きた炊き込みご飯に仕上がっています。時間が経っても風味が残り、だしの存在感が続きます。
「濃縮だしシリーズ」があれば、だしの味がぐっと上がり、しかも手間が省けてコストも抑えられます。外食店としては、本当に助かりますね。
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うどん 蔵之介
今まで持っていた濃縮だしの
概念が変わりました。
希釈しただしの香り、旨み、コク、その完成度と技術の進歩に、素直に驚きました。
ご主人 大山 浩 さん
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うどん蔵之介
東京都豊島区高田香川で食べた讃岐うどんのおいしさに衝撃を受け、香川で5年間修業の後、2007年に「うどん 蔵之介」を開店。香川のうどんをそのまま持ってくるために、仕入れ先も何もかも修業時代の業者とそのまま付き合いを続けている。ざる、かけ、ぶっかけ、釜揚げなど香川の伝統的なスタイルが味わえる、うどん専門店。
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私どものだしと比べても遜色のない
一杯ができる
「濃縮だしシリーズ」を初めて試食した時、まず香りと旨みののびに驚きました。これならシンプルなかけうどんで十分に通用する、私どものだしと比べても遜色のない一杯ができるはずだと感じました。
私どものかけうどんのだしは、こんぶといりこ、そしてうるめ、むろあじ、さば、かじかを独自にブレンドした削り節を使います。こんぶを先に取り出して、沸騰するギリギリのところでじっくり時間をかけて火を入れ、そこに薄口醤油を合わせます。当日に引いて一度冷やしておいて、注文ごとに小鍋で温めて提供します。
今回は、いりことこんぶを「濃厚いりこだし」と「濃厚こんぶだし」に置き換えました。私どものお店の味に近づけるよう、2つのだしを調整しながら加え、削り節を加えて火入れします。繊細な火入れは結構難しい作業でしたが、仕上がりはほとんど違いが分からない出来栄えです。
かけうどん
「濃厚こんぶだし」と「濃厚いりこだし」でつくるかけうどんのだしは、自然な風味がする。
こんぶの旨みといりこの力強い香りが、丁寧に引いただしのように透明感を生み出している。
冷やかけのだしは別に仕込みます。冷たいつゆは味が弱く感じやすいため、いりこを多めにし、前日からこんぶと一緒に水に浸して一晩寝かせます。さらに沸騰させないようじっくり火を入れ、もう一晩休ませることで、最初のひと口で〝ガツン〟とくるいりこのインパクトを生み出します。
本来はとても手間がかかりますが、「濃厚いりこだし」と「濃厚こんぶだし」を使えば仕込みの時間が短縮されます。
「何リットルの水に対して何グラムの濃縮だしを加えて加熱してください」でできてしまうと思いますから、誰がつくっても味が安定します。さらに、だしを大量に使う時には何といっても便利です。
「濃縮だしシリーズ」の完成度の
高さに驚いた
今はいりこもこんぶも凄く高いですよね。中でも特に目立つのがこんぶです。私どもが使っているのは、北海道の函館の真こんぶですが、この「濃厚こんぶだし」の原料も函館の白口浜の真こんぶだと聞きました。肉厚で上品な甘みがあり、だしを取ると澄んだ旨みが出ます。やはりいいですね。
うどんは、だしを食べる料理といってもいいほど、だしの出来がすべてを左右します。今回「濃縮だしシリーズ」を試作する中で、既製品のだしを使うことに最初は少し抵抗がありましたが、実際に使ってみて、その完成度と技術の進歩に素直に驚きました。とてもいい経験になりました。ありがとうございました。
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日本料理 吉星
だし原料の高騰にどう向き合うかが
課題です。
「濃縮だしシリーズ」のコストパフォーマンスのよさを上手く使うことが、解決の鍵になるかもしれません。
ご主人 奥山 敬介 さん
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人形町 吉星(きちせい)
東京都中央区日本橋人形町昭和30年創業の日本橋人形町に店を構える老舗日本料理店。素材は、毎朝ご主人が豊洲市場に行き仲買人と対話して、すべて目利きで買ってくる。天然のふぐや鱧、鯛、鮎、松葉かに、松茸など旬の素材を中心に、素材の持ち味を最大限に活かした会席料理を提供。四季折々の恵みを堪能できる和食の名店である。
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「濃縮だしシリーズ」は塩分が
気にならない
「濃厚かつおだし」を希釈して口に含むと、だしの当たりに強さを感じました。かつおの旨みや風味がはっきりしています。
そこで、このかつおの強さを活かして、茄子の煮凝りをつくってみました。茄子のような水分の多い野菜には、かつおの風味が効いた濃いだしが合います。
煮汁に使った「濃厚かつおだし」と「濃厚こんぶだし」の割合はかつおを多めにして、あとは水です。茄子が煮汁をしっかりと含みます。こうしたかつお節と相性のいい食材や、料理にかつおの風味が欲しい時には、とても便利だと思います。
通常、常温で流通している液体調味料には保存性を高めるために食塩が入っていますから、料理のつくり手からすると凄く邪魔になってしまうことがあります。「濃縮だしシリーズ」は、風味がのびることも凄いなと思いましたが、塩分が気にならないことにも驚きました。高い倍率で希釈できるため、塩分がそれほど気にならないですね。これは味の組み立てにとても重要なことです。
こんぶの風味をここまで抽出するのは
なかなか難しい
次に、「濃厚こんぶだし」で炊き込みご飯を炊きました。水と酒、当たりは塩だけ。醤油は入れていません。こんぶの持っている香りや旨みの要素がご飯に生きていて、甘みがあって、凄くおいしいと思います。うすい豆とこんぶはとても相性がいいので、シンプルにこんぶだしだけで炊きました。
「濃厚こんぶだし」は、これだけ濃縮されていても雑味がないというか、余計なものを感じません。こんぶの味自体もよく、風味が強いですから、いろいろな料理に使えておもしろいですね。すりながしなどにも使えるでしょう。とにかく、こんぶの風味をここまで抽出するのはなかなか難しいです。
赤だしの上澄み仕立て
だしは、かつおの豊かな香りを軸に、「濃厚かつおだし」と「濃厚こんぶだし」を重ね合わせる。味噌はあえて沈殿させ、上澄みだけを使うことで、かつおの風味をまっすぐに引き立てる。
うすい豆の炊き込みご飯
「濃厚こんぶだし」に、水と酒、塩でやさしく味を調えて炊き上げる。こんぶの豊かな香りと旨みが、うすい豆と米本来のおいしさをそっと引き立てる。
味噌汁は、かつおとこんぶの合わせだしですが、かつおだしを圧倒的に多くしました。「濃厚かつおだし」にパンチがありますから、それをおいしく活かすために、赤だしを上澄み仕立てにして味噌の風味を抑え、かつおを際立たせたのです。かつおの風味がたっぷりと楽しめます。
それにしても、かつお節もこんぶも価格がべらぼうに上がってます。さらに、いいかつお節やいいこんぶが少なくなってきているのは確かです。今後、「濃縮だしシリーズ」のコストパフォーマンスのよさを上手く使えば、さまざまな課題を解決することができると思いますね。
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