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二代堀切紋次郎の白味淋イメージ
素材のちからとは

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素材の生産者や輸入者のそれぞれの製品に対する思い入れや育てる愛情、漁獲・収穫の苦労、生産・加工の難しさ、そうした努力のすべてを“素材のちから”と捉え、メーカー・商社・生産者の商品情報を直接取材して使い手である調理の現場へお届けするフリーマガジンです。

今回は、『素材のちから』第40号(2021年春号)より「マンジョウ 本みりん」特集記事を抜粋してご紹介します。

みりんを深掘る

今使われている、綺麗に澄んだみりんは江戸後期に生まれた。

もともとみりんは、もう少し色が濃く濁りがあり、今のみりんとは違っていたという。
料理に使われるのではなく、清酒と同じ飲み物として楽しまれた。
いつ、今のみりんができたのか。今回はみりんを改めて深掘りしてみたい。

紋次郎の白味淋が江戸前の味を確立させた。

下総国流山の酒造業者「相模屋」の
二代当主、堀切紋次郎

みりんは料理に上品な甘みとコクを加え、美しい照りと艶を与える隠し味として長年使われ続けてきたが、身近にありすぎてその存在を深く知ろうとしてこなかった気がする。
そもそもみりんは、戦国時代に大阪でつくられたと聞く。はじまりは調味料としてではなく、清酒と同じ飲み物としてつくられた。上方でつくられる清酒は醸造技術が高く〝下り酒〟としてその品質が高く評価されたが、みりんはそれよりも2~3倍高価な〝下り物〟として江戸に出荷された。
その後、三河でもみりんがつくられるようになったが、江戸をとりまく酒造業者は、上方からの〝下り酒〟(とみりん)に押され、清酒の販売が振るわなくなった。
この逆境を解決すべく、それまでにない新しいみりんづくりに挑戦したのが、下総国流山(今の千葉県流山市)の酒造業者「相模屋」の二代当主、堀切紋次郎だった。

白味淋の開発に成功した二代堀切紋次郎とその妻(キッコーマン国際食文化研究センター所蔵)

紋次郎は淡泊で薄味な上方のみりんとは違い、甘みと旨みが凝縮し濃厚でコクのあるみりんづくりを目指した。江戸川の清らかな水で育つ米、精白や濾過技術の向上も紋次郎に味方した。
そして江戸時代の後期、文化11年(1814年)に試行錯誤の末、流山白味淋を生み出す。これが美しく透き通り上品な甘みと旨みを持つ新しいみりんのはじまりであり、やがて現在の「マンジョウ 本みりん」へと進化していった。

白味淋は花開く江戸の外食文化と
ともに全国に広がっていった

紋次郎が白味淋をつくった江戸末期は、市中にすし、天ぷら、そば、うなぎなど、さまざまな屋台が並ぶ外食文化が花開く時期だった。そして丁度みりんが酒として楽しむ飲み物から料理に調味料として使われるようになる頃でもあり、確立されていく江戸前の料理に広く浸透し、やがてこれが全国へと広がっていった。
天保12~13年(1841~1842年)頃の浮世絵にも、高輪から品川にかけての海沿いにたくさんの屋台が並ぶ様子が描かれている。紋次郎の白味淋は江戸前の味を確立させたのだ。

みりんを深掘る

料理によってみりんを使い分けしてみよう

みりんを選りすぐる

みりんの風味の違いを分析してみる

料理の味を組み立てる時に、しょうゆや酢の微妙な風味のニュアンスにまでこだわる料理人はいるが、みりんにこだわる人は意外に少ないような気がする。もちろんみりんにも風味に違いがあり、これを上手に使い分けるなら、さらにおいしい料理がつくれるはずだ。今回は江戸後期につくられた白味淋を継承する〝マンジョウ 本みりん〟の中から「本みりん割烹」と「米麹こだわり仕込み 本みりん」、「濃厚熟成本みりん」の3つの本みりんをご紹介したい。

みりんの風味の違いを分析してみる

まず、〈みりんのマッピング〉をご覧いただきたい。みりんの風味の特長は、上品な甘みと濃厚な旨みにあるが、甘み、旨み、それぞれの質によってみりんの個性が決まる。

〈みりんのマッピング〉

みりんの甘みは複数の糖類でつくられるが、オリゴ糖の含有量が多いほど甘みは上品で、おだやかな甘みが長く続く。また、みりんの旨みやコクは、含まれるアミノ酸度と総酸度(有機酸)の量で強さが決まる。
「本みりん割烹」を見ると、甘みと旨みのバランスのとれた本みりんの標準タイプであることが分かる。それに比べて「米麹こだわり仕込み 本みりん」は、やさしい甘みの中に旨みを感じるタイプで、上品で華やかなイメージだ。「濃厚熟成本みりん」は、甘みの中に強い旨みとコクを感じるタイプで、甘みの濃厚感という点では3つの中で最も分かりやすい。

みりんとしょうゆのマリアージュを探る

みりんはさまざまな料理に使われるが、しょうゆと一緒に使われることが多い。ご存知のように、しょうゆには〝こいくち〟と〝うすくち〟があって料理によって使い分けられる。それならば、これに合わせるみりんも使い分けてはどうだろうか。醸造されてつくられるこの2つの調味料の組み合わせから、新しい発見があるかもしれない。
そこで、「濃厚熟成本みりん」に〝こいくちしょうゆ〟 の「特選 丸大豆しょうゆ」を、「米麹こだわり仕込み 本みりん」に「うすくちしょうゆ」を組み合わせてテイスティングしてみることにした。
強く厚みのある旨みとコクが特長の「濃厚熟成本みりん」に、まろやかな旨みと深いコクが特長の「特選 丸大豆しょうゆ」を合わせたものは、旨みにガツンとくる強い濃厚感が出ている。これは「特選 丸大豆しょうゆ」と「濃厚熟成本みりん」が持つたくさんのアミノ酸とブドウ糖が結合することによって、コク、旨み、香り成分のもととなるメラノイジンという物質がたくさん生まれるかららしい。
おそらくこの強い濃厚感は、焼肉やすき焼き、ステーキや焼き鳥、もつ煮など、肉を使ったメニューの旨みとコクに厚みをつけてくれるだろう。この甘みの深さは印象的だ。
上品でやさしい甘みが特長の「米麹こだわり仕込み 本みりん」に、素材の色や持ち味をいかす「うすくちしょうゆ」を合わせたものは、色は薄く、甘さが上品で春野菜の煮物や酢の物、さらに繊細な素材や出汁を味わうような料理に合うだろう。

〈みりんとしょうゆの効果的な組み合せ〉

2つを比べると味の方向性はまったく違っていて、しょうゆとみりんの組み合わせで料理はまったく変わる。これほど違いがあるなら、みりんの使い分けは、料理の方向性を明確にするのではないだろうか。

この仮定が正しいことを確かめたい

みりんを使い分けるという仮定は間違っていないだろうか?
早速、みりんの使い分けについて和食店に相談してみた。
さらに、今回は〝鳥料理〟の店と〝もつ焼き店〟を取材し、「濃厚熟成本みりん」の強い旨みとコクを試していただいた。

本みりんを選りすぐる ①日本料理

本みりんの特長の違いを料理に使い分けたい。

〝濃厚〟な本みりんと〝優美〟な本みりん。それぞれの特長をいかせる料理があるはずだ。

  • 店主 五十嵐 明良 さん

    店主 五十嵐 明良 さん

  • 和の食 いがらし
  • 和の食 いがらし

    東京都渋谷区恵比寿開店は2008年の8月。当時32歳だったご主人は、30歳くらいのお客様が小遣いで楽しめるど真ん中の和食を提供しながら、学んだことをどれだけ忠実に再現するかに夢中になっていた。そして13年目の今、唎酒師、ソムリエの資格を持ち、新しい食材や新しい何かを見つけたいと挑戦を続ける。

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確かにみりんに対する意識は低かったと思います

今回、〝みりんの使い分け〟をご提案いただいて、ちょっとハッとさせられました。そのまま舐めて比べてみると、「濃厚熟成本みりん」は濃厚で、「米麹こだわり仕込み 本みりん」は上品というのが風味の印象ですが、料理に使ってみるとその違いが凄く分かりやすかったですね。
たとえば、蕎麦つゆをつくると「濃厚熟成本みりん」の方はかえしの味を強く感じ、「米麹こだわり仕込み 本みりん」の方は出汁の香りを凄く感じます。確かに2つの本みりんの甘みやコクはかなり違いますね。
私は料理の味に直接かかわってくる塩やしょうゆ、酢に関してはそれなりのこだわりを持ってやってきましたが、みりんは縁の下の力持ちの役割という意識が強かったのでしょうか、意外にみりんに対しする意識が低かったと思います。
〝みりんを使い分ける〟という主旨がよく分かりましたので、それぞれの本みりんのよさをいかした料理をつくってみましょう。

出汁を味わう料理に向くみりん
タレの濃厚感を楽しむみりん

まず〝甘鯛のかぶら蒸し〟です。かける餡に、一番出汁に塩、うすくちしょうゆ、「米麹こだわり仕込み 本みりん」を使い葛で止めました。
かぶら蒸しは出汁の料理なんですよね。「米麹こだわり仕込み 本みりん」の上品な甘みとコクの奥深さが、甘鯛のデリケートな身の旨みに絡まるかぶの甘さと出汁のおいしさを楽しませてくれています。

甘鯛かぶら蒸し

〝すっぽんのつけ焼き〟は、すっぽんの前肩を炭火で素焼きして、その後しょうゆと砂糖、そして「濃厚熟成本みりん」のタレをくぐらせて味をのせて焼いていきます。「濃厚熟成本みりん」を使ったタレには濃厚感に力がありますから、風味の強いすっぽんならではのおいしさを楽しめると思います。
こうしてみると「濃厚熟成本みりん」は、焼き鳥やうなぎの蒲焼、穴子のツメやすき焼きなどにもいいでしょうね。みりんの世界も極めていくと、結構奥が深いかも知れませんね。

すっぽんのつけ焼き

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本みりんを選りすぐる ②鳥料理

みりんを変えるとタレの質も大きく変わる。

みりんを変えると風味が今までよりも奥深くまろやかに、そして味のノリが増す。

  • 総料理長 大久保 富士夫 さん

    総料理長 大久保 富士夫 さん

  • 鳥料理 それがし
  • 鳥料理 それがし

    東京都品川区西五反田2013年5月開店の鶏料理の専門店。鳥をメイン素材として使う懐石風のコース料理が人気。ヘルシーなとりのすき焼きの評判は高く、前菜は旬の素材を使った料理が一皿に7~8種類、デザートも少しずつ5種類を提供するなど、「ちょっとずついろいろ食べたい。」という女性客の心をつかむ。

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私のみりんの概念が変わった

私にとってみりんは普段意識して使う調味料ではなかったので、みりんを比較するというのはちょっとおもしろかったですね。
確かに「濃厚熟成本みりん」と「米麹こだわり仕込み 本みりん」では違いがあります。しょうゆと合わせてテイスティングするとまったく別物になって、一層違いが分かりました。
みりんは素材に複雑なコクと旨みをのせ、照りと艶を出し、砂糖とは違った上品な甘みを与えます。さらに味を染みこませ煮崩れも防ぐというようにたくさんの仕事をしているのですが、決して主役を張るのではなく陰から料理を支えているイメージで、私の中では調味料として意識が低かったなと思いました。
修行時代に親しんだものがいいとそのままずっと使っていましたから、今回私のみりんの概念をちょっと変えてもらったかなと思っています。今まで使い分けてきませんでしたから、これを機会にやっていきたいなと思っています。

濃厚感のあるみりんは肉料理にはなくてはならない

早速とりのすき焼きのタレに「濃厚熟成本みりん」を使ってみました。タレはこいくちしょうゆとうすくちしょうゆ、そして「濃厚熟成本みりん」と酒です。新たな発見というか、まろやかになった気がしますね。砂糖を入れなくてもこれだけ甘みが出るんですね。旨みも増してすき焼きの味が全体的にグッとまとまりました。

とりのすき焼き

次の料理は、新鮮なレバーを火を通しすぎないくらいギリギリのところまで炙り、こいくちしょうゆと「濃厚熟成本みりん」と酒を合わせて温めたタレを注ぎます。とろりとしたレバーと「濃厚熟成本みりん」の強い旨みとコクが一緒になって、何とも言えない濃厚ななめらかさに仕上がりました。今までより味のノリが凄くよくなり、口の中でレバーと甘みがとろりと溶け合う瞬間に濃厚感が出てきました。「濃厚熟成本みりん」は、こうしたシンプルなタレづくりに使うと凄く力を発揮しますね。濃厚感のあるみりんは肉料理にはなくてはならないと思います。

とろレバー

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本みりんを選りすぐる ③居酒屋

照り、艶、味の深さ、
もつ串焼きのタレの違いは圧倒的。

質のいいタレは、時間が経っても変わらず美しく自然な深い甘みでもつを包み込む。

  • 店主 武藤 公良 さん

    店主 武藤 公良 さん

  • 鳥料理 それがし
  • 桃狼

    東京都文京区湯島新鮮なもつの串焼きともつ煮を主体に、ご主人が毎日豊洲市場で仕入れてくる魚を使った料理が人気の居酒屋。17年前フレンチシェフから転身したご主人のつくる料理には、和食でありながらフレンチの技法やエスプリが隠れている。手間と時間をかけてつくり上げる料理は見事で常連客を離さない。

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みりんはみりん、そんなに違いはないと思っていた

私にとってみりんはみりんでしかなく、種類を調べて試したこともありませんでしたから、「濃厚熟成本みりん」と「米麹こだわり仕込み 本みりん」を比べてみて、初めて濃厚な甘みと上品な甘みがあることが分かりました。これだけの違いがあるのなら使い分けようと思います。
魚の西京漬けのタレや幽庵焼きの味噌床をつくる時には濃厚な「濃厚熟成本みりん」を使い、魚が焼き上がる最後の仕上げに刷毛で塗り、ひと炙りして料理に花を咲かすのは「米麹こだわり仕込み 本みりん」といったイメージの使い分けもできますね。
今回は、私どもでお店に出しているメニューに「濃厚熟成本みりん」を使ってみます。濃厚な甘みに加え、強い旨みとコクがメニューをどう変えるのか興味があります。

毎日つくっている料理だからこそ、変化はすぐに分かる

早速〝もつ煮〟に「濃厚熟成本みりん」を使ってみました。新鮮な生の牛の胃袋と豚の胃袋をカットして3回くらい茹でこぼし、出汁と酒と「濃厚熟成本みりん」としょうゆ、あとニンニクと鷹の爪を入れて、やわらかくなるまで、大体2〜3時間炊きます。最後の仕上げに味噌を入れるのですが、この味噌は八丁味噌と京都の白味噌、練りごま、そこに酒と「濃厚熟成本みりん」と砂糖を合わせて、弱火で1時間くらい練って仕込んだものです。
味噌を練っている時から照りと艶が違っていますし、でき上がった〝もつ煮〟の味も深みが増しました。毎日味見しているので違いはすぐに分かります。

もつ煮

次は〝もつの串焼き〟です。この串を見てお分かりになるように、照りと艶が凄くいきいきしています。〝もつの串焼き〟は時間が経つとすぐ色褪せてくるのですが、これはずっと落ちないんですよ。テイクアウトメニューにしても胸を張って販売できます。これが一番分かりやすい説明だと思うのですが、いかがでしょうか。味のノリも凄くよくて深みが増しています。今回つくってみて一番分かりやすいのはタレでしたね。タレが圧倒的に違います。

もつの串焼き

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濃厚熟成本みりん

濃厚熟成本みりん

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