


素材のちからとは
素材の生産者や輸入者のそれぞれの製品に対する思い入れや育てる愛情、漁獲・収穫の苦労、生産・加工の難しさ、そうした努力のすべてを“素材のちから”と捉え、メーカー・商社・生産者の商品情報を直接取材して使い手である調理の現場へお届けするフリーマガジンです。
今回は、『素材のちから』第56号(2025年春号)より「キッコーマン 超特選しょうゆ」特集記事を抜粋してご紹介します。
しょうゆに等級があることを
知らなかった

しょうゆに等級があることをご存じだろうか。JAS規格では特級・上級・標準の3つの等級が規定されていて、こうした等級はしょうゆのうまみの指標といわれる〝窒素分〟の含有量や〝エキス分〟〝色度(色の濃淡)〟の値によって決められる。
〝窒素分〟という言葉は耳慣れないが、しょうゆのうまみ成分であるグルタミン酸をはじめ、多くのアミノ酸類には窒素が含まれているため、窒素分の含有量が多いほど、うまみ成分が多いしょうゆということらしい。
さらに、こいくちしょうゆでは、窒素含有量が特級の規格より10%以上多いものに〝特選〟、20%以上多いものに〝超特選〟 と表示することができる。また、うすくちしょうゆでは、窒素含有量は特級の規格と同じで、さらに無塩可溶性固形分(エキス分)が特級規格より10%以上多いものには〝特選〟、20%以上多いものには〝超特選〟 と表示することができる。ただし、糖を添加してエキス分を上げたものについては認められない。

今回ご紹介する「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」と「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」は、格付けとして最高位の〝超特選〟を持つ、うまみの強いしょうゆだ。

新たに登場した2つの超特選は今までにない大きな特長を持つ
さて、2つのしょうゆには、さらにもう一つ、大きな特長がある。それは塩分が少ないことだ。「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」の塩分は15%と、通常のこいくちしょうゆが100ml当たり17.1%(八訂より)ほどであるのに比べて低い。塩分が低いことで「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」の濃厚感は増し、香りも甘く感じる。このため料理に対して使用量を減らすことができ、コストダウンや減塩にもつながる。
さらに「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」の塩分も15%で、通常のうすくちしょうゆが100ml当たり18.9%(八訂より)ほどであるのに比べるとかなり低い。
本来、うすくちしょうゆは、色や香りが控えめにつくられていて素材の色や風味を活かす料理に使われるが、うまみやコクが足りない時にうすくちしょうゆを足そうとしても、塩分が高いため味のバランスが崩れる。
こんな時にはみりんや酒など他の素材でうまみを補うが、「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」は塩分が低いため、しょうゆのうまみとコクを自在に調整することができる。
このように、新たに登場した2つの超特選しょうゆは、今までのしょうゆとは違う大きな特長を持っている。
それにしても、この2つのしょうゆを初めてテイスティングした時、塩味のやわらかさとうまみの強さに驚いた。いままでのしょうゆは何だったのだろう、もしかしたら従来のしょうゆの概念を変えてしまうかもしれないと思ったほどだ。
さらに、この2つの超特選の特長をキッコーマン食品(株)のしょうゆ開発部を訪ね詳しく伺ってみよう。
「できないことが当たり前」が、できるようになるしょうゆ。

岡澤 歩夢 さん(左)遠藤 良知 さん(右)
塩分が少なく、うまみの強いしょうゆは、どのように開発されたのだろう。構想から開発まで長い時間がかかったようだ。今までの常識を常識と思わず、しょうゆの新たな価値を生み出そうと取り組み、しょうゆを進化させた。しょうゆに対する考えをアップデートしなくてはならない。
なぜ、塩分が少なく、うまみが強いしょうゆを開発したのでしょうか
遠藤 今、世の中では希釈タイプのドリンクが増え、レモンハイやビールなどの酒類も濃いものを割って自分の好みの味にして楽しむ、こうした自由度を楽しむものがたくさん出てきていて、食品は基本的に濃くなる傾向にあります。他の業界もそうですが、技術が進むと製品は小さくなり濃くなっていきます。
岡澤 昔、しょうゆの等級は〝上級〟と〝標準〟の2つでしたが、やがて人々がうまみの濃いものを好むようになり、しょうゆの品質改善が進み〝特級〟という等級ができました。
今ではこの〝特級〟が主流になり〝特選〟〝超特選〟が増え、しょうゆも濃厚化への流れをたどっています。そして、これからはしょうゆの濃厚なうまみを自由に使って、新しい表現をしたいと思う料理人が増えるはずだと考え、〝塩分が少なく、うまみが強いしょうゆ〟という新たなコンセプトの商品開発に何十年も前から取り組んできました。
「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」の濃厚感はどのようにして出来上がるのでしょう
遠藤 「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」は今の流れに沿って、こいくちでありながら、通常のこいくちしょうゆよりもはるかに濃いうまみを持っています。料理を食べた時に、印象のあるしょうゆの先味がパンときて、うまみと香りが伸びて後味まで引っ張ってくれるのが特長です。
岡澤 ポイントは〝濃厚仕込み〟にあります。通常の仕込みよりも食塩水の量を少なくして、諸味の中にしょうゆ麹の割合を増やしているので、濃いまま薄まることなくうまみが引き出されるのです。
仕込みに使う食塩水が少ないことで低塩に仕上がります。本来しょうゆ麹をたくさん使うと発酵しづらいのですが、そこを長年の研究で培った独自の発酵管理で円滑に進め、この濃厚感に仕上がるのです。
遠藤 さらに、味伸びのよさも発酵管理によってつくられます。しょうゆは乳酸発酵させますが、乳酸菌が働きやすい環境をつくり出すことで乳酸発酵を旺盛にしています。
濃厚仕込みや独自の発酵管理によりグルタミン酸などの成分が多く生成されることで、しょうゆの先味を印象付け、後味を伸ばしてくれる風味が手に入るのです。さらに、従来のこいくちしょうゆよりも穏やかな香りになって、とても使いやすく、私たちが求めていた香りのバランスになりました。
「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」の塩分の低さは画期的ですね
岡澤 〝塩分が少なく、淡色でうまみが強い〟このうすくちしょうゆができたのは、掛麹という特許製法をつくり上げたからです。麹を食塩水で仕込んで諸味づくりを通常は一回で終えるところを、途中でもう一回麹を入れるというのが掛麹製法です。
当然工程が多い分、従来のうすくちしょうゆのつくり方よりも手間がかかり、難しい管理のなかで色を淡くしなくてはならないためにジレンマがありました。色が付かないように、じっくり低温で発酵熟成させてうまみを上げました。この掛麹と低温発酵熟成という二つの技術革新で新しいうすくちしょうゆを生み出したのです。

遠藤 さらに香りにもこだわりました。しょうゆの香りが強すぎると素材の香りをマスクしてしまい、本来のおいしさが活きないというご意見がありましたので、だしや素材が活きるように、しょうゆのうまみを上げても香りは穏やかに抑えてあります。
岡澤 従来のうすくちしょうゆには、塩分の高さと味のバランスをとるために甘酒や砂糖など甘さの成分が入っていますが、このしょうゆはその部分を掛麹製法で得られるエキス分で補っています。もともと塩分が低くうまみも強いので、甘さをそれほど補う必要もありません。
通常、煮物などは時間が経つと色づいてきたりしますが、これはうすくちしょうゆに含まれる糖によるものです。「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」は糖を使用していませんから、できたての色が長く続き、とても使いやすいと思います。
この2つのしょうゆができたことで外食業界に期待することはありますか
遠藤 一般的に料理のおいしい塩分濃度は決まっていますから、料理人の皆さんは、「うすくちしょうゆを使ったら塩味が上がってしまうよね、こいくちしょうゆを使っても塩味を持ってくるよね。」という先入観のようなものがあるのではないでしょうか。このため料理に対して自由な発想に蓋をしてしまっているような気がします。
今回の2つのしょうゆは、料理をつくる時に塩分の持ち込みがかなり落ちますから、塩分に余裕があることで、さまざまな工夫ができます。ミネラル分のある塩を加えるのもいいでしょうし、塩味のある素材と合わせることもできます。こうして今までできないことが当たり前だったことが、できるようになることで、今までにないおいしい料理が生まれる、そんなシーンを見ることができれば開発者として幸せですね。
和食の料理人に聞いてみました①
六雁
しょうゆにこんな時代がきたのだと衝撃を受けました。
〝塩分が少なく、うまみが強い〟、今までにない新しいしょうゆを歓迎します。
料理長 秋山 能久 さん
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六雁
東京都中央区銀座まるで舞台のように広いオープンキッチンで、旬の食材をお客様の目の前でボイルし、焼く、揚げる臨場感は圧倒的。料理のおいしい瞬間を逃さず提供する和食店。時代に合わせて組み立て直した技法でつくる料理は、自然界に敬意をはらい野菜を中心に食材の持っているエネルギーを伝えようとするシンプルな料理だ。
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このしょうゆでこれからの料理が変わるはずだ
だしに「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」を一滴たらして飲んだ時に、そのおいしさにびっくりしました。私は塩分にとても敏感なので、うすくちでありながらこれだけ塩分濃度が低いのは、凄くいいですね。グルタミン酸とイノシン酸がのっただしに、このしょうゆを加えただけで価値あるだしになる。このしょうゆで人を感動させることができるとさえ思ったほどです。
〝鯛煮麺〟のつゆには、通常は鰹と昆布のだしをベースにうすくちしょうゆ、酒、塩を加えますが、今回は「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」だけを加え、しょうゆの持っている塩味と香りだけをだしに纏わせました。だしに「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」を加えた瞬間にうまみと香りが広がり、酒はいらないと分かります。

さらに、焼いてほぐした鯛から出る香り、うまみ、香ばしさがつゆに溶け込みます。煮麺をすすった時に、鼻から感じる香りのおいしさがシンプルに楽しめると思います。
次に「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」を使ってひじきの料理をつくりました。

ひじきの炒め煮 春野菜と共に
ひじきをごま油、「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」とみりんで炒めて冷まし、ボイルや蜜煮にした春野菜を食べやすい大きさに切って合わせる。
〝ひじきの炒め煮 春野菜と共に〟は、ひじきの持つ海藻の香りと食感を残すために、煮炊きするのではなくごま油でさっと炒めて、そこに少しのみりんと「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」を入れて、味を含ませるような感覚で炒め煮にします。冷めたら粗みじんに切った生姜、みょうが、ねぎを和えて、しゃきっとした食感と香りを付け加え、ボイルや蜜煮にした旬の野菜と合わせます。
従来のこいくちしょうゆは、加熱すると風味が立ち上がり食材本来のうまみや香りがしょうゆに持っていかれた感じになりますが、「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」のように塩味が抑えられていると風味が立ちすぎず、穏やかでバランスのいい仕上がりになります。うまみがしっかりあって、口の中で咀嚼した時に春野菜の香り、苦み、甘みがひじきとひとつになる、そんなイメージです。
それにしても、〝塩分が少なく、うまみが強い〟という特長は、しょうゆの進化といえるのではないでしょうか。
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和食の料理人に聞いてみました②
鈴なり
料理人にとって理想のしょうゆができましたね。
濃厚なうまみと低い塩分が新しい味づくりに役立ち、やがて料理を変えていくでしょう。
店主 村田 明彦 さん
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鈴なり
東京都新宿区荒木町2005年12月の開店以来、〝日本料理をリーズナブルな価格で提供したい〟という想いは今も変わっていない。季節感を取り込む料理は、素材の〝走り〟〝盛り〟〝名残〟のおいしさを美しく丁寧に表現する。料理は一つ一つの積み重ねと、基本を守りながら新たな素材や技法にも挑戦し、料理の可能性を常に広げようとしている。
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料理のスタートラインに立った時にすでにうまみが底上げされている
料理にうまみが欲しい時には、みりんや酒で補います。しょうゆは塩味がありますから気を付けて加えないと味のバランスが壊れるからです。しかし、「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」や「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」のように、塩分が少なくてうまみの強いしょうゆがあれば、うまみを上手くコントロールできます。
たとえば「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」で〝ブリテキ〟をつくってみると、このしょうゆの持つうまみの強さがよく分かります。

〝ブリテキ〟のように煮詰めていく料理は、しょうゆのうまみを酒とみりんの甘みで補うような味つけをしますが、「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」の強いうまみがあれば、甘みの要素は少なくて済みます。いつもは酒3、しょうゆ1、みりん1.5ですが、今回は、酒2、「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」1、みりん1に変えて、酒とみりんを少なくし、しょうゆの割合を増しました。
煮詰めていくと、しょっぱくなるのではなくうまみが出てきて、そこにやわらかな甘みも感じます。ブリの脂をしょうゆの濃厚感がぐっとつかまえたような深い味わいが残り、これが長く楽しめます。
〝春野菜の炊き合わせ〟は、だしと「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」、酒、みりんで炊きましたが、みりんも酒も通常の半分にしました。

春野菜の炊き合わせ
たけのこ、ふき、こごみをだし、「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」、そして、酒とみりんは通常の半量で炊いた。
「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」は、塩分が少ないのですが決して味が薄いわけではなくて、このしょうゆだけでも炊けるのではないかと思うほどうまみが強いです。ですから、みりんも酒も使う量が少なくて済みます。色も綺麗に仕上がりましたし、繊細な春野菜それぞれのおいしさが楽しめます。
今はこうした料理も素材の味を引き立てるシンプルな炊き方をしますから、それほど多くの調味料を必要としなくなってきている気がします。うまみのある塩を使う料理人が多いのもその流れです。
このしょうゆを使うことで、料理をつくるスタートラインに立った時にはうまみがすでに底上げされているのですから、料理人にとってはいいことしかないのではないでしょうか。
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和食の料理人に聞いてみました③
和の食 いがらし
素材のおいしさにシンプルに向かい合えるしょうゆができたのですね。
酒、みりん、砂糖など、調味料で補うことなく、しょうゆのうまみで料理が組み立てられます。
店主 五十嵐 明良 さん
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和の食 いがらし
東京都渋谷区恵比寿2008年8月の開店以来、素材選びから調理、サービスに至るまで仕事に対する「誠実な姿勢」を何より大切にしている。料理、盛り付け用の器は月ごとに変わり、季節の移ろいを細やかに演出する。料理と酒の組み合わせの大切さを知ると、ソムリエと酒ディプロマの資格を取得。常に新たなテーマを求め、自分の料理を磨く努力を怠らない。
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バランスをとり合う調味料が減り日本料理はさらに引き算されシンプルに
まず、一番びっくりしたのは「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」の塩分の少なさとうまみの強さです。普段、うすくちしょうゆで味をつけていて、ちょっとコクが欲しいなという時はこいくちしょうゆを足して味を調えていくのですが、この「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」を使えばそれがまったく必要ありません。
本来、うすくちしょうゆにはうまみが足りないわけですから、料理として完成するためには何かを加えなくてはいけません。煮物などには最後に少し隠しみりんを足したりしますが、それもまったくいらないですね。お椀などには酒を少し煮切って加えたりしますが、それもいらないですね。
この〝甘鯛のかぶら蒸し〟は、まぐろ節と昆布のだしにほんの少しの塩を加えて、あとは「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」で味をつけています。

いつもはみりんを入れますが今回は使っていません。通常うすくちしょうゆだけで味をつけると薄っぺらい味になりますが、「P超特選 うすくちしょうゆ低温発酵」はうまみが強いため、仕上がった料理を食べてみると味を濃く感じます。
料理にみりんや酒など他の要素を加えなくてもしっかりと味が成立しますから、本当におもしろいし、楽だし、簡単においしい料理ができます。
〝鯛のかぶと煮〟は通常、酒、砂糖、みりん、こいくちしょうゆ、たまりしょうゆで煮ますが、今回はみりんもたまりしょうゆも使っていませんし、酒も半量にしました。あとは砂糖、「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」と水です。

鯛のかぶと煮
鯛の頭を、酒は通常の半量、そして、みりんもたまりしょうゆも使わずに、砂糖、「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」と水で煮る。
これだけうまみとコクの要素を抜いてもおいしい味が成立するのですから、それだけ「P超特選 こいくちしょうゆ濃厚」のうまみと風味が強いのです。しかも優しく甘い味わいが鯛本来のうまみを楽しませてくれます。
この濃厚なうまみとコクは、蕎麦のかえしや蒲焼のタレなどに使うと今までにないおいしさを発揮するのではないでしょうか。
日本料理は引き算だといわれますが、こうした新しい時代のしょうゆが現れることで、以前にも増して料理は余分な調味料を使わずにシンプルに素材を活かす方向に向かうでしょう。
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