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日本料理のためのワイン
「あまつひ」の醸造責任者に
インタビュー。
マンズワイン勝沼ワイナリーの魅力もご紹介

日本料理に合わせるお酒というと日本酒がまず浮かびますよね。そんな常識を破って、本格的な日本料理といっしょに楽しめるワインをつくることはできないか……。「日本がおいしくなるワイン。」をスローガンとしているマンズワインが「京料理 木乃婦」の三代目主人、髙橋拓児さんとつくったのが「あまつひ」シリーズの「しふく」と「香紫」です。ユニークな取り組みとなったこれらのワイン、なぜ日本料理との相性がいいのかなどを醸造責任者の宇佐美 孝さんにインタビューしました。合わせて山梨県にあるマンズワイン勝沼ワイナリーもご紹介します。

「ワインをつくっている感覚ではなかった。」
日本料理とともに
いただくための
白ワイン「しふく」

2023年7月の快晴の日、マンズワイン勝沼ワイナリーへうかがいました。2020年に第1弾として白ワイン「しふく」を発売した、日本料理に合う「あまつひ」シリーズについて、醸造責任者の宇佐美さんにお話をうかがいます。

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ワイナリーショップ入口にて、ボルドー色の制服姿の宇佐美さんに出迎えていただきました。

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宇佐美 孝さん/マンズワイン取締役 製造部部長 勝沼ワイナリー醸造責任者。1999年に入社しワインの製造に従事。オーストラリアのアデレード大学で醸造学を学んだそう。マンズワインが創業以来目指す「日本のぶどうのよる日本のワイン造り」の味を生み出す責任者の一人です。

「京料理 木乃婦」の三代目主人、髙橋拓児さん監修、今までのセオリーではつくれなかったワイン

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─「あまつひ」としてはじめて2020年に発売になったのは、白ワインの「しふく」ですよね。詳しく教えていただけますか?

宇佐美:まず最初に髙橋さんに様々な原酒を試飲してもらい、アドバイスをもらい、日本酒や日本料理に合わせやすい既存のワインも教えてもらって研究がスタートしました。そこでわかったのはワインの味わいに大切な果実味が、逆に日本料理にとってはマイナスになってしまうことでした。素材そのものの味、そしてだしの風味などを大切にし、いうなれば「そぎ落とす」ようにして繊細な味を生み出すのが日本料理です。なので、ワイン自体も主張しすぎず、突出したところがなくてバランスの良いことが合わせるために大事と思ったのです。まさにワインづくりにも「そぎ落とす」発想が必要なんだなと。それは、今まで追求していた欧米のワインの味づくりのセオリーとはまったく異なるものでした。

―「しふく」に使うぶどうにはマンズワインの研究の成果が生かされているそうですね。教えていただけますか?

宇佐美:はい。まずマンズワインがもともと大切にしている日本のぶどう品種「甲州」があるのですが、栽培時に遮光すると、果実味と苦味を抑えてとてもすっきりとした味わいになるんです。これはマンズワインが新たな味わいのワインのために試していた栽培方法だったのですが、これこそが日本料理に合うワインの材料としてしっくりくるものだったのです。

ワイナリーに隣接した圃場にて、遮光したぶどうを見学させていただきました。

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ワイナリーショップに隣接したぶどう畑(圃場)。マンズワインが所有する畑の一部です。

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ひと房ごとに丁寧に袋かけされたぶどう「甲州」。雨や鳥、虫の被害から果物を守るための袋ではなく、完全に光を遮る特殊な袋をかぶせているのだそう。

初めて完成した日本料理に合わせるための白ワイン「しふく」の味わいは?

―「しふく」は完成までにどのくらいかかったのですか?

宇佐美:髙橋さんと密にやりとりを重ねて約3年です。その間にも京都にいって、お茶やお香といった日本独特の文化を体験して和の文化を肌で感じたことも大きかったと思います。製造工程でも遮光栽培した「甲州」を丁寧に搾ったり、酸化させないように配慮しながらつくりました。

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「しふく」をつくるにあたっての髙橋さんとのキャッチボールは実験と検証の繰り返しだったそう。イメージだけで開発を進めるのではなく「サイエンス」を意識した、と宇佐美さん。

―たくさんの試行錯誤から生まれたんですね。宇佐美さんご自身の「しふく」の印象を教えてください。

宇佐美:日本料理の素材の味を増幅させるような味ですね。酸味を抑えてふくよかな丸みがあり、すっと消えて料理の邪魔をしないというか。ある意味ワインであって、ワインでない新たなものができたと思っています。

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「しふく」の名前の由来は「仕覆」という茶道における道具を包む袋から。「甲州」に袋かけをして遮光することを貴重なものを包む仕覆と見立てたそう。
「しふく」について詳しくはこちら

杉の香りをまとった、
しょうゆやみりんを使う
日本料理に合う赤ワイン
「香紫」

「あまつひ」シリーズの第二弾は2022年に発売になった、赤ワイン「香紫」です。こちらについても宇佐美さんに解説いただきます。

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「しふく」に続いて開発した「香紫」。赤ワインはそもそも日本料理に合わせるのはむずかしい、という定説を覆すためにいっそうの試行錯誤が続きました。

―杉板を使うなど赤ワインとしては珍しい特徴がありますね。そんな「香紫」の特徴を教えてください。

宇佐美:数ある赤ワイン用のぶどうの品種から吟味して、日本で生み出された品種を使用し熟成させて、あえて枯れた風味にすることで、果実味をそぎ落とし、日本料理にマッチするようにしました。これも今までのワインづくりの発想にはあまりないことです。そしてもうひとつの工夫は炙った「杉板」を熟成時に加えて香りをつけたことです。これによってしょうゆやみりんを使った日本料理にぴたっと合うワインになりました。

―なぜ杉なのですか? 

宇佐美:髙橋さんから、日本料理に相性のよい木材は昔から「杉」だとうかがったのです。日本料理では杉の箸を使ったり、食材に杉の香りをうつす「杉板焼き」という調理法もあります。この発想をワインにもとりいれることになりました。高橋さんが勝沼に来て、実際に杉板を炙ってくれたんです。その後、適度な杉のニュアンスを探すために、杉板のサイズ、量、漬込み期間など様々な組み合わせを試しました。その結果、ベースワインと杉の香りがひとつにまとまり、独特の上品さが生まれたと思います。

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地下セラーにていずれ「香紫」となるべく熟成させている樽を見学させてもらいました。樽1本に約230リットルのワインが入っています。天然木の樽に入ったワインは少しづつ揮発して減っていくので、定期的につぎ足すなど面倒を細かくみる必要があるのだそう。

―「香紫」はどのような料理に特に合うのでしょうか?

宇佐美:鴨肉を焼いたものなど、こくのある日本料理に特に合うと思います。しょうゆやみりんを使ってこっくり仕上げた秋冬の日本料理にいいと思いますよ。すき焼きなどと合わせてもおいしいと思います。

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「香紫」は、このワインを象徴するやわらかな熟成香と紫壇(したん)の色合い、日本料理にかかせないしょうゆが「むらさき」とも呼ばれることから名づけられたのだそう。
「香紫」について詳しくはこちら

おいしい記憶が生まれる、
新しいワインと
食との出会いを

日本料理に合うワイン「あまつひ」を手掛けることは、醸造責任者の宇佐美さんにとって、どんな経験になったのでしょう。詳しく聞いてみました。

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―「しふく」「香紫」をつくって宇佐美さんが印象に残ったことや変化などはありましたか?

宇佐美:京都の料理人、髙橋さんとプロジェクトを組むことで、料理人のものづくりの真摯な姿勢や日本古来の食文化や美にふれるなどして、既存のワインの枠組みにとらわれずに新たなものを生み出すことができました。「あまつひ」は実験と検証の積み重ね……いわばサイエンスを大事にしてつくられたワインです。その結晶としてできあがった味わいは、日本酒よりも日本料理に合わせやすい要素すら持っているのではないかと思います。そして、私自身もワインを「料理と合わせる」という観点にあらためて気づかされました。最近は「このワインにはどういう料理が合うだろうか」という視点も持ちながらワインをつくるようになりました。
そして、キッコーマングループの一員としてマンズワインが日本料理に合うワインをつくることは、食文化の国際交流にもつながっていくことと思います。
デイリーに楽しんでいただく価格帯のワインではないのですが、ぜひご家庭でも特別なとき、質の良い旬の食材が手に入ったときなど和食に合わせて、いっしょに食を楽しみたい大切な人と飲んでいただきたいですね。

たくさんの
ワインに出会える、
人気の勝沼ワイナリー

山梨県はぶどうの仕込み量もワイナリー数も日本一。中でもマンズワインの勝沼ワイナリーは県内最大規模を誇ります。

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車では中央自動車道・勝沼ICから約7km。電車の場合はJR中央線塩山駅からタクシーで約5分の場所にあります。

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マンズワインの豊富なワインがずらりそろったショップ。気持ちの良い空間です。

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ワインの有料試飲コーナーも充実。詳しい解説を聞きながら、しっかりと自分の舌で吟味して、好みのワインを選ぶことができます。

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ゆったりくつろげるスペースも。また、予約をすれば地下セラーほかの設備を見学することも可能です。

マンズワイン 勝沼ワイナリー

山梨県甲州市勝沼町山400

●営業時間 9:30~16:30
●休業日 4月~11月:無休/12月~3月:水曜日定休(祝日は除く)
●問い合わせ 電話:0553-44-2285

くわしくはマンズワインHPをご覧ください

ホームクッキング担当より

取材より少し前に「京料理 木乃婦」にて、この2つのワインを日本料理とともに試飲させていただく機会があったのです。ひと口飲んで「え、これはワイン!?」という印象でして、とにかくまろやかで酸味がおだやか、日本料理と合わせたときにまったくじゃまをせず、料理のうま味がより感じられるように思いました。個人的には「しふく」はだしの風味によく合い、「香紫」は少し脂を感じる日本料理にすっとなじむ印象でした。マンズワインならではの取り組み、ぜひこれからもご注目ください。勝沼ワイナリー訪問もおすすめです。(編集長・杉森)

撮影/金田邦男 
構成・文/杉森一広(キッコーマン)
※商品情報は本記事公開時点のものです。公開後にリニューアル、販売終了等になることがありますので詳しくはマンズワインHPの商品情報をご確認ください。
公開:2023年9月5日