鮭の焼き方を解説!
フライパン、グリルでおいしく焼くコツ。下ごしらえも!
鮭の切り身は、食卓によくのぼるお手軽な魚のひとつ。ただ焼いただけでもおいしく食べられますが、下ごしらえや焼き加減にちょっと気を配るだけで、その味わいは格段にアップするんです。今回は、そんな鮭の切り身を上手に焼くコツを解説。鮭の種類や選び方のほか、おいしいレシピもあわせて紹介します。
鮭の切り身の選び方。
生鮭と塩鮭、何が違う?
おいしいのはどれ?
一見、どれも同じような鮭の切り身ですが、実際はさまざまな違いがあります。スーパーなどの店頭で選ぶときは、「生鮭か塩鮭か」「塩分の濃さ」「どの部位か」を確認するようにしましょう。
生鮭と塩鮭の違い
生鮭とは、塩を添加していない鮭のこと。未加工なので消費期限が短く、漁獲量の多い秋から冬にかけて出回ります。一方、塩鮭は保存をきかせるために塩漬けしたもの。塩分濃度によって表示が異なり、一般的に塩分濃度が3%未満のものは「甘口」、3%~6%のものは「中辛」、6%以上のものは「辛口」とされることが多いものの、厳密な基準はありません。
部位の違い
店頭で鮭の切り身を見て、形の違いに気づいたことはありますか?これは部位の違いによるもので、頭に近いほうは弓型、尾に近いほうは半月型をしています。このほかには、「カマ」と呼ばれるエラの後ろ部分も。こちらは1尾につき2箇所しか取れない希少部位で、身が締まっていて脂の乗りもよいことから好まれています。
樋口さん「ハラスのあるお腹の部分を含んだ頭側は、脂がのっている部位。一方、尾側は筋肉が発達しているので味が濃いといわれますが、そこまでの違いは感じられないかもしれません。部位によって価格は変わらないので、どちらを選ぶかはお好みで。料理で使い分けるなら、脂ののった頭側は焼き魚などのシンプルな料理に、脂の少ない尾側は揚げ物に向いています。また、尾側は骨が少ないので、お子さんにもいいですね」
おいしい鮭の見分け方
同じ種類の鮭を比べたとき、身の色が濃い方がおいしいといわれています。また、血合い部分の色が白いことも鮮度が高い印。身の真ん中辺りの皮近くにある、三角形状の部分を指します。
樋口さん「鮭の身の色は、エサとなる生物に含まれるアスタキサンチンという色素に由来します。色が濃いということはエサをたくさん食べている証拠。栄養状態がいい鮭は身が締まって、おいしいというわけ。また、鮮度の落ちた鮭は血合いの色が茶色っぽくなってくるので、できるだけ白いものを選びましょう」
鮭の切り身の下ごしらえは、
生鮭と塩鮭、
どちらも塩がカギ!
焼く前の下ごしらえは、鮭のおいしさを左右する大事なひと手間。生鮭と塩鮭で行うことが変わるので、コツをおさえてどちらもおいしく焼き上げましょう。
生鮭の下ごしらえ
- 鮭の表と裏にまんべんなく塩をふる。塩の分量は鮭の重さの1%。
- 常温で15分~30分おき、キッチンペーパーでくるむにようにして軽く押さえ、水けを取り除く。
樋口さん「塩をふっておいておくと水分が抜けるため、全体に身が締まるうえに皮もパリッと仕上がります。身が締まることでくずれにくくなるので、盛りつけやすいというメリットも。特に水分が多い秋鮭には欠かしたくない工程ですね。塩は目が細かいものを使い、30cmほど高い位置からふる”尺塩(しゃくじお)”をすると、全体にいきわたりやすくなります。
冷蔵庫に入れると塩の浸透速度が遅くなるので、できるだけ早く調理したいときは常温で。15分経っても水分があまり出ていない場合は、最長30分までの範囲で様子を見ながら進めてください」
塩鮭の下ごしらえ
- 清酒、水、塩を混ぜて「酒塩(さかじお)」をつくる。分量の目安は、鮭の切り身2~3切れに対し清酒100ml、水100ml、塩2g。
- ジッパーつき保存袋に塩鮭と酒塩を入れ、空気を抜いて口を閉じる。冷蔵庫で3時間おき、キッチンペーパーで水分を取り除いてから焼く。
樋口さん「酒塩と呼ばれる汁に浸けることで、鮭の塩抜きを行います。塩鮭の塩分濃度はメーカーによって異なるため一概には言えませんが、基本的に甘口ならこの工程は不要。酒塩の塩分濃度は1%が目安です。それより低いと鮭の身に水分が入り、味が抜けてしまうので注意しましょう。
ジッパーつき保存袋を使うと鮭全体をまんべんなく酒塩に浸けることができます。バットのように鮭全体が浸からないものを使う場合は、途中で裏返すようにしてください。料理酒は塩分の入っていないものを使いましょう。特に、魚や肉のくさみを消す効果が高いものがおすすめ。今回は『マンジョウ 国産米こだわり仕込み 料理の清酒』を使っています」
鮭の切り身の焼き方
【フライパン・魚焼きグリルどちらも】
今回、紹介する焼き方は、フライパンと魚焼きグリルの2通り。皮のパリッと感を強めたい場合は魚焼きグリル、手軽に焼きたいならフライパンと、好みで使い分けてください。
家庭用魚焼きグリルでの焼き方
- 魚焼きグリルを中火で3分予熱する。
- 鮭の下ごしらえを済ませ、焼く直前に塩少々を振る。まだらでOK。分量の目安は鮭の重さの0.3%ほど。
- 身が薄いほうを手前にし、皮目を上にした鮭を魚焼きグリルに。網の端に置くのがポイント。
- 中火で4分焼いたら火を止め、少し開けてそのまま3分おく。
樋口さん「魚焼きグリルは後片づけが面倒と思うかもしれませんが、予熱してから焼けば網に鮭の身がくっつきにくくなります。焼き時間も短くすることができるので、余熱の工程は省かないようにしましょう。焼く直前にふる塩は”化粧塩”と言います。この塩は表面にとどまり、味を強く感じさせる効果があるので、溶けにくい粒の大きな塩を使うのがおすすめ。
魚焼きグリルの場合、庫内の端と奥の温度が高くなるため、切り身は薄いほうを手前にして網の端に置くのがポイントのひとつ。今回は両面焼きグリルを使っていますが、片面焼きグリルなら先に3分焼き、裏返してから2分~3分を目安に焼いてください。火を止めたら最後に余熱を利用して、中までしっかり火を通します。このとき、グリルを完全に閉じてしまうと火が通りすぎるので、開けたままにします」
フライパンでの焼き方
- フライパンに油を入れて、中火で温める。油の量は小さじ1が目安。
- 鮭の皮目を下にして置き、酒大さじ1を加えてふたをする。
- ふたの内側に蒸気がこもったら、弱火にして4分~5分焼く。
- ふたを外してフライ返しなどで鮭の身を起こしたら、フライパンのふちを活用し、皮の部分に焼き目を付ける。(フライパンに水分が残っている場合はキッチンペーパーなどで拭き取る)
樋口さん「焦げつきにくいフッ素樹脂加工のフライパンを使って、手軽に焼く方法です。鮭を置くときに端に寄せているのは、できるだけ熱源に近い場所で焼くため。今回はガスコンロを使っているので、この位置となりましたがIHの場合はこの限りではありません。ふたをして4分ほどであらかた水分がなくなるので、焦らずじっくり焼いてください。また、皮部分は焼き目を付けないとグニュッとした食感になるので、フライパンにできるだけ密着させ、しっかり焼きましょう」
冷凍の切り身を焼く前に!
上手な解凍テク
冷凍された状態で販売されていることも多い鮭の切り身。そのまま加熱しても中心まで火が通りにくく、うまく焼き上げるのが難しいため、解凍してから焼くようにしましょう。樋口さんが教えてくれた方法は、冷凍された鮭を氷水に浸し、冷蔵庫で2時間ほどおくというもの。これが一番、鮭のおいしさを損ないにくい解凍方法だそうですよ。
樋口さん「-5℃から-1℃の間は、氷の結晶が一番大きくなる温度帯。この時間が長いほど鮭の身はダメージを受け、ドリップとともにうま味が出てしまうため、いかに短時間で通過させるかが肝心です。理想の解凍温度は0℃なので、氷水に浸したらチルド室に入れるのがベスト(その場合はボウルでなくバットなど浅い容器を使うことが多いと思いますが、水をこぼさないように注意してください)。切り身のまま冷蔵庫に入れないのは、水は空気よりも熱を伝える速度が速く、短時間で解凍できるからです。解凍中に氷が溶けてしまったたら、その都度、足していくようにしましょう」
秋の鮭をよりおいしく!
樋口さん考案
『秋鮭の焼き浸し』
秋に出回る秋鮭は脂肪分が少なめで、あっさりした味わいが特徴。そんな秋鮭を使ったうま味たっぷりレシピを、樋口さんが教えてくれました。手軽につくれておいしい一皿、みなさんもぜひお試しあれ!
樋口さん「鮭で有名な新潟県村上市の郷土料理『鮭の焼漬け』と、ホイル焼きにインスパイアされてできあがった料理です。玉ねぎの甘み、まいたけのうま味、さらにグルタミン酸が豊富なしょうゆも使ったうま味のかけ算で、あっさりした秋鮭の味わいをアップさせました。温かくてもおいしいですが、時間をおくと玉ねぎからの甘みがさらに出るので、一晩おいたくらいが食べごろ。鮭も野菜もまとめて一緒に焼くので焦げにくく、フライパンひとつでつくれる手軽さもポイントです」
鮭の栄養素をおいしく摂取できる副菜レシピも!
鮭の種類を解説!
鮭とサーモンの違いも
ひと口に「鮭」と言っても、その種類はさまざま。樋口さんのレシピにも登場した秋鮭のほか、紅鮭、銀鮭など、スーパーなどの店頭で目にすることの多い鮭の特徴をまとめました。
なお、鮭とサーモンはどちらも同じサケ科サケ属。養殖で生食可能なものを一般的に「サーモン」と呼びますが、なかにはキングサーモンのように天然と養殖どちらもあるものも。購入時の表示を確かめるようにしましょう。
1)白鮭
国内で最も多く出回っている鮭。秋から冬にかけて漁獲されたものは「秋鮭」と呼ばれ、産卵を終えているため、脂肪が少なくあっさりした味わいが特徴です。このほか、春から夏にかけて穫れる、産卵前で脂の乗った「時鮭(ときしらず)」や、未成熟で臭みがなく、めったに穫れない「鮭児(けいじ)」もこの白鮭。
2)紅鮭
身の色はその名の通り紅色で、他の鮭よりも濃く鮮やか。身が締まっていて厚く、濃い味で脂もやや乗っています。
3)銀鮭
身は濃いオレンジ色で、養殖(チリや三陸沖)のものがほとんど。漁獲時期は夏から秋にかけてで、身がやわらかく適度な脂肪分が特徴です。
4)アトランティックサーモン
「タイセイヨウサケ」とも呼ばれ、国内ではノルウェー産が多く出回っています。完全養殖のため生食が可能。身の色は薄いオレンジで、脂が乗っていてうま味たっぷりです。
ニジマスを海水で育てたもので、トラウトサーモンと呼ばれることも。完全養殖で、鮮やかなオレンジ色の身はクセのない味わいです。産地はチリやノルウェーで、日本でも育てられています。
産地はアラスカやカナダ、チリなどが主要。日本で穫れるものは希少で、「マスノスケ」と呼ばれています。天然物も養殖物もあり、脂肪分が多い身は厚く、とろけるような味わい。
旬の食材には献立の
ヒントがいっぱい。
秋を知らせる鮭を
もっと食卓に!
樋口さん「食材の旬がなくなりつつある昨今ですが、店頭に秋鮭が並んでいると季節を感じられますよね。”この時期が来たな”と思いながら味わうのも楽しみですし、また来年が待ち遠しくもなる。こういう一番おいしい時期の楽しみ方を知ると、自然にあるものを食べるようになって、”今日は何を食べよう”と献立づくりに悩むことがなくなります。結果的に自分が楽にもなれるので、その第一歩として、秋になったら鮭を食べてみてはいかがでしょうか?」
教えてくれた人 樋口直哉さん
作家、料理家。服部栄養専門学校卒業後、料理教室勤務や出張料理人などを経て、2005年『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。作家として作品を発表する一方、全国の食品メーカー、生産現場の取材記事を執筆。料理家としても活動し、地域食材を活用したメニュー開発なども手がける。主な著書として小説『大人ドロップ』(2014年映画化)『スープの国のお姫様』、ノンフィクション『おいしいものには理由がある』、料理本『新しい料理の教科書』など。
撮影/金田邦男
公開:2024年10月12日
ホームクッキング編集担当より
樋口さんが教えてくださった工程にはすべて理由があり、おいしく焼きあがるのも納得でした。スーパーでは様々な鮭があり、どれを手に取ればいいか分からないこともありますよね。種類や部位の特長をそれとなく思い出してもらい、その時々でベストな鮭を選んでもらえたらうれしいです。料理もさらにおいしくなるはず!(編集担当・市川)