
胃に優しい食べ物とは?
食べ方のポイントや
消化に良いレシピも紹介
【キッコーマン総合病院監修】
風邪を引いたときや、暴飲暴食、ストレスなどが原因で胃が重たくなったり、食欲がなくなったりすることはありがちです。こうした不調時には胃に優しい食事を摂り、できるだけ負担がかからないようにすることが大切。では、具体的にはどんな食べ物が良いのでしょうか?調理と食べ方のコツ、おすすめレシピなどと合わせて、胃に優しい食事のポイントをキッコーマン総合病院に取材しました。
胃に優しい食べ物とは?
その特徴4つと具体例を紹介
胃に優しい食べ物の特徴としては、主に「食物繊維が少ない」「脂質が少ない」「胃に優しいたんぱく質が多い」「味が薄い」という4つが挙げられます。それぞれの理由と具体的な食べ物を、キッコーマン総合病院 院長の三上 繁先生に聞きました。
院長の三上先生。「胃にとどまる時間が短いことが、胃に優しい食べ物のポイントです」と、やわらかい笑顔で語ってくれました
食物繊維が少ない
「食物繊維とは、“ヒトの消化酵素で分解されない、食物中の難消化性成分の総体”を指します」と、三上先生。つまり、消化・吸収されにくい食物繊維が少ない食べ物は、胃に負担がかかりにくいと言えるそうです。具体的には「うどん、おかゆ、豆腐、納豆、白身魚、鶏むね肉、ヨーグルト、大根、りんごなどがおすすめ」なのだとか。
三上先生がおすすめする、胃に優しい食材の例
三上先生「なお、食物繊維には水溶性と不溶性の2通りがありますが、気をつけたいのは不溶性食物繊維です。保水性が高く、便の量を増やしたり腸のぜん動運動を促したりする働きがあり、便秘の解消を助ける反面、腸管に刺激を与えるため、胃腸の調子が悪いときには控えるようにしましょう。
一方、水溶性食物繊維は胃腸粘膜を保護する働きがあるため、問題ありません。むしろ、オクラや納豆、なめこ、長芋やとろろ芋、めかぶ、レンコンなど、ねばねばした食べ物は、含まれるムチンやペクチンなどの水溶性食物繊維の働きにより、胃の粘膜を保護する胃腸に優しい食材です」
ねばねばした食材は胃の粘膜を保護するため胃に優しい食材
脂質が少ない
三上先生「食物中の成分でもっとも早く消化できるのが炭水化物、次いでたんぱく質となります。一方、消化にもっとも時間がかかるのが脂質。胃の中に留まる時間が長くなるため、胃に負担をかけやすいと言えます。脂質が少ない食べ物としては、鶏むね肉や鶏ささみ、たらなどの白身魚などのほか、やわらかく煮た野菜やりんご、バナナなどの果物、脂肪ゼロのヨーグルトといった無脂肪の乳製品などがおすすめです」
胃に優しいたんぱく質が多い
三上先生によると、「胃粘膜をつくるためにも重要なたんぱく質は、胃の調子が悪いときでも十分に摂りたい栄養素」。ただし、動物性たんぱく質の場合は、肉よりも魚が良いそうです。
三上先生「魚は肉に比べて繊維が短く、やわらかくなりやすいため、胃への負担を抑えることができます。たらやかれい、ひらめなど、脂質の少ない白身魚を選びましょう。なお、肉類の場合は、鶏肉を選ぶと脂質の摂取を抑えられます。また、豆腐や納豆などの大豆製品のほか、半熟卵、茶碗蒸しもおすすめです」
味が薄い
三上先生「香辛料や濃い味つけのものは、胃酸の分泌を促したり、胃粘膜を刺激したりします。胃に負担をかけないよう、薄味を心がけましょう。また、味つけが控えめなメニューは比較的、塩分が少ない傾向にあります。パック詰めされた総菜やレトルト食品には、通常、塩分やナトリウム含有量が記載されているので、塩分量(食塩相当量)を比較し、より少ないものを選びましょう」
胃がもたれる・痛いときに
避けたほうがいい食べ物は?
食物繊維の多いもの
先ほどのお話にもあったように、不溶性食物繊維の多い食べ物は、胃もたれがあるときだと消化に負担をかける可能性があります。「特に硬い野菜や海藻類、きのこ類は控えめに」とのこと。
脂質の多いもの
三上先生「特に揚げ物や脂身の多い肉、クリーム系の料理は避けるようにしましょう。具体的には、牛サーロインや豚バラ肉、皮付きの鶏肉といった脂身の多い肉類、揚げ物、バターやサラダ油などの油脂類が当てはまります」
味の濃いもの
塩辛いものや甘すぎるもの、油っこいもの、刺激の強いものなど、味の濃い食べ物は、胃もたれの症状を悪化させることがあるため、ラーメンや丼ものなどは注意が必要です。また、酸味の強い食品は胃酸分泌を増加させるため、胃痛を引き起こす可能性がある」と、三上先生。そのため、「柑橘類、トマト、酢などの酸味の強い食品」も控えたほうが良いそうです。
熱すぎるもの、冷たいもの
食べ物や飲み物は、適温でいただきましょう。「極端に熱すぎたり冷たすぎる飲食物も、胃を刺激して不調を悪化させることがあります。水やお茶なども、常温で飲むのがおすすめ」
一部の嗜好品
アルコールやカフェイン、炭酸飲料なども、胃の不調時には控えたいところ。
三上先生「アルコールは胃粘膜を刺激して胃痛を引き起こすことがあるため、胃痛があるときは避けるようにしましょう。また、コーヒー、紅茶、エナジードリンクといったカフェインを含む飲み物や、炭酸飲料は胃酸分泌を促進するため、胃痛を悪化させる可能性があります」
胃に優しい調理・
食べ方のコツ
小さく切り、よく噛んで食べる
「食べ物はゆっくりとよく噛むことが大切」と、三上先生。よく噛むことで唾液の分泌が促されるうえ、唾液に含まれる消化酵素と細かく噛み砕かれた食べ物がよく混ざり合い、胃や腸での消化・吸収がスムーズになります。
三上先生「厚生労働省などが推奨する咀嚼回数は、一口につき30回以上。食事時間の目安を20分程度と決め、一口30回を目標によく噛んで食べるようにしましょう。これを意識することで消化の助けとなるのはもちろん、満腹感を得られるので食べすぎ防止も期待できます」
また、食材が大きいと十分に噛まないまま飲み込んでしまう可能性があるため、小さく切るのも良いそうです。
加熱する
食材は生の状態よりも、火を通したほうが消化・吸収がスムーズになります。これは、熱が加わることで食品に含まれるたんぱく質の立体構造が変化するため。
三上先生「この変化によって胃液に含まれるペプシンなどの消化酵素がアクセスしやすくなり、分解効率が大幅に向上します。反対に、生肉や生卵が消化に悪いと言われるのは、これらの酵素が働きにくいためです。
また、加熱によって食べ物の組織がやわらかくなり、噛み砕きやすくなるほか、ほぐれた状態になることで胃腸の消化液や消化酵素が食べ物の内部まで浸透しやすくなります。こうしたことから、食べ物全体での消化反応が促進されるのです」
なお、油を使う炒め物や揚げ物は胃に負担をかけるため、ゆでる・蒸す・煮るといった調理法がおすすめだとか。
三上先生「ゆでる・蒸す・煮るという調理は、食材を物理的にやわらかくし、かつ消化に時間のかかる脂質を抑えることができます。胃腸に優しく消化しやすい食事になるため、胃腸が弱っているときや消化不良を防ぎたいときに適した調理法ですね」
食べ過ぎない
三上先生「食事の量は、腹八分目を心がけることが大切。大量の食べ物が胃に入ると、胃の消化機能が追いつかず、食べ物が胃に留まる時間が長くなります。消化を促すために過剰分泌された胃酸は、胃の粘膜を傷つけたり、胸焼けを引き起こしたりする要因。また、食べ物が一度に大量に入ると胃が過剰に拡張するため、胃壁に圧力がかかって胃痛や不快感、吐き気につながることがあるほか、胃酸が逆流しやすくなって胸焼けの原因になる場合もあります」
食後はすぐに寝ない
三上先生「睡眠中は消化機能が低下するため、食べたものが胃に長時間留まり、胃もたれや不快感の原因となります。特に揚げ物や脂っこい食事は消化に時間がかかるため、胃腸に大きな負担がかかるもの。また、食後すぐに寝ると、胃酸が食道に逆流しやすくなり、逆流性食道炎のリスクを高めるので注意しましょう」
さらに、「胃が消化活動を続けることで体が休まらない」という悪影響もあるのだそう。
三上先生「脳が覚醒した状態なので、寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりすることがあり、睡眠の質を低下させます。
食後に胃を休めるには、食後30分から1時間は激しい活動を避け、軽いストレッチや散歩、または座ってリラックスした状態で過ごすのが良いでしょう。血行を促す程度の軽い運動は消化を助けます。横になる場合は、胃酸が逆流しやすくなる仰向けは避け、体の右側を下にして上半身を起こした状態にするのがおすすめ。このような姿勢をとることで、胃の内容物がスムーズに移動するのを助けます」
飲み物は少しずつ飲む
三上先生「一気に飲むと胃酸が薄まり、菌作用や消化能力が弱まることがあります。また、大量の飲み物で胃が膨らむと、胃に負担がかかって気分が悪くなることも。さらに、冷たい飲み物を一気に飲むと胃が驚いてしまい、働きが鈍ることがあるので、常温や白湯のように、胃に負担の少ない温度で少しずつ飲むのがおすすめです。また、温かい飲み物は胃の筋肉をほぐし、血流を改善して消化を助ける働きもあります」
シチュエーション別に見る、
おすすめの食べ物・調理法
風邪や発熱で体力が落ちているときにおすすめの食べ物は?
体力が落ちて胃腸が弱っているときは、「消化吸収が早く、エネルギーを補給しやすいおかゆ、うどん、スープといった、消化が良く温かい食事がおすすめ」と、三上先生。さらに、「脂身の少ない肉や豆腐、卵、加熱した繊維質の少ない野菜などを組み合わせると、ビタミンやミネラルを補給できる」そうです。
三上先生「食材は、高たんぱく質で低脂質なものを選びましょう。高たんぱくな食材としては、特に豆腐や卵豆腐、茶碗蒸しがおすすめ。また、鶏ささみ、鶏むね肉は脂質が少なく、やわらかく調理すれば食べやすいですね。脂質の少ないたら、かれいなどの白身魚も適しています」
なお、生魚は鮮度が落ちていたり、細菌や寄生虫が存在していたりする可能性があるので控えてください。免疫力が低下した状態では、通常よりも食中毒にかかるリスクが高まります。
飲みすぎや二日酔いで胃もたれするときにおすすめの食べ物は?
飲酒による胃もたれも、基本的には風邪や発熱で体力が落ちているときと同じで、おかゆやうどん、スープなどを選ぶと良いのだそう。
三上先生「そのうえで、肝臓の働きを助けるビタミンB1が豊富な豆腐、納豆、豆乳は消化も良い食材。また、卵はたんぱく質やビタミンB群が豊富で、アルコールの分解を助けます。脂肪の少ない鶏ささ身や魚などを、煮る、蒸すといった油を使わない調理法で摂るのが良いでしょう。
野菜・果物では、大根、かぶ、山芋などはアミラーゼと呼ばれる消化酵素を多く含み、胃腸の消化機能を助けます。アミラーゼは熱に弱いので、生のまますりおろして食べるのがおすすめ。肝臓の働きを助ける野菜でキャベツやほうれん草、小松菜のように繊維がやわらかいものは、加熱して食べると消化が良くなります。アルコールの分解を助けるタンニンや果糖を含む柿も良いですね。
食べるときは、胃の働きを助けるように温かい状態で。みそ汁、特にしじみやあさりなどを具材にしたものは、塩分やミネラルを補給でき、胃を温めてくれます」
ストレスで胃が痛い・胃もたれするときにおすすめの食べ物は?
ストレスで胃が痛くなったり胃もたれしたりするのは、自律神経の乱れが原因だとか。
三上先生「ストレスを感じると、胃酸の分泌を促す自律神経である交感神経が優位になり、胃酸が過剰に分泌されます。一方で、精神的なストレスは胃の血流を悪化させ、胃粘液の分泌を低下。過剰な胃酸と低下した防御機能のバランスが崩れると、胃粘膜に炎症(ストレス性胃炎)が起こりやすくなり、胃痛や胃潰瘍の原因となることがあります」
さらに、ストレスによって胃の動きが悪くなり、食べ物の消化・排出が遅れるため、胃に負担がかかって胃もたれの原因になることもあるのだそう。
三上先生「ストレスの軽減には、幸福感をもたらすセロトニンの生成を助けるトリプトファンを含んだバナナ、ナッツ、大豆製品がおすすめ。また、ストレスを感じると大量に消費されるビタミンCは、ドーパミン、アドレナリンなどのストレス対抗ホルモンの生成を助ける働きがあります。そのため、パセリ、ブロッコリー、キウイ、みかんなど、ビタミンCを含む緑黄色野菜や果物を意識的に摂取することが大切。特に、じゃがいもやさつまいもはビタミンCが豊富に含まれるうえ、でんぷんに守られているため、加熱しても壊れにくいという特長があります」
胃腸炎などでおなかを下しているときにおすすめの食べ物は?
三上先生「下痢の症状があるときは、消化が良く、腸への刺激が少ない食べ物がおすすめです。おかゆ、よく煮たうどんのほか、豆腐や納豆、鶏むね肉、白身魚などのたんぱく質、やわらかく煮た大根や白菜、じゃがいもなど野菜も良いでしょう。
また、失われがちな水分や電解質を補給することも大切。特にカリウムは多く排出されるので、カリウムを多く含んでいて消化の良いバナナ、すりおろしたりんごなどの果物も良いでしょう。塩分補給には、簡単に摂れる梅干しがおすすめです」
また、水分と電解質を効率良く補給できるのが、経口補水液やスポーツドリンク。野菜スープや味噌汁も、水分と塩分の補給に役立ちます。お茶は温かいのはもちろん、番茶やほうじ茶といったカフェインが少ないものを選ぶのが良いそうです。
三上先生「食欲がない場合は、無理に食事を摂る必要はないので、まずは水分補給優先で。食事を再開するときは少量から始め、よく噛んでゆっくり食べましょう。冷たいものは胃腸を刺激するため、できるだけ温かいものを摂取してください」
胃に優しい
おすすめレシピ3選
たまご雑炊
水分が多く、やわらかく煮込んだおかゆや雑炊は、消化・吸収がとても良い一品。卵は高たんぱく質で消化に良く、低カロリーなので安心していただけます。
生たらの煮つけ
たんぱく質が豊富で脂質が少ないたらを使った、和食の定番メニュー。ご飯がすすむ甘辛味ですが、胃に負担を感じているときは、少し薄味に調整するのも良いでしょう。
鶏団子とチンゲン菜の汁
かつおだしの味わいがしみる、胃に優しい椀物。鶏団子に使うひき肉は、できれば鶏むね肉のように脂質の少ないものを選んでください。
胃に優しい食べ物+
生活習慣の見直しで、
大切な胃を
もっといたわろう!
胃の調子が良くないとき、胃に優しい食べ物を摂ることはもちろん大切。そのうえで心がけたいのが、胃の不調を引き起こす原因を取り除くことです。三上先生によれば、「しっかり休息をとり、十分な睡眠時間を確保する」「適度な運動や趣味などでストレスを発散させる」「1日3回の食事を規則正しい時間に摂るなど、生活リズムを整える」といったことも実践するとよいのだとか。
三上先生「胃の調子が悪いとき、特に避けるべきなのが煙草。胃の血流を悪くし、胃酸の分泌を促進するため、できれば禁煙を心がけましょう。また、胃の周辺を温めると血行が良くなり、消化を助ける効果が期待できます。温熱シートや湯たんぽなどを活用してみてください。
今回、お話しした内容を少しずつ実践することで、毎日がんばってくれている胃をいたわることができます。できることから始めて、あなた自身の身体と上手に付き合ってください」
教えてくれた人 三上 繁先生
キッコーマン総合病院 院長。1986年千葉大学医学部卒業後、同大学医学部第1内科入局。関東各地の病院で研鑽を積んだ後、キッコーマン総合病院に入職。内科部長、副院長、院長代理を経て2020年に第12代院長に就任。東京理科大学薬学部客員教授。日本消化器病学会消化器病専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。明るくバイタリティーあふれる人柄でスタッフを率いる。


ホームクッキング編集担当より
今回ご紹介した食材や調理のコツは、どれも簡単に取り入れられるものばかり!寒暖差が大きく、胃腸炎や風邪、感染症が流行しやすいこの季節。さらに忘年会やクリスマス、年末年始で胃腸も疲れてしまいがちですよね。私もちょっとした工夫で胃腸をいたわりながら、元気に冬を乗り切りたいと思います!(編集担当・賀来)